【詩のようなもの6編】 緑の織り手
【緑の織り手】
陽光に刺繍された金網の影模様
その隙間を編む緑の糸
名残りを惜しむ風の通り道
過ぎ去った季節の縁側
足元を見つめる僕に
「ここにいるよ」と囁く
砂利道の縁に滲む緑
この景色が布地ならば
僕は境界線の向こうまで
そっと自分を編み込みたい
雑踏を忘れる緑のエチュード
忘れられるまでのひと時
刹那を過ぎる緑の息遣い
足元の小さな祈り
隙間を満たす緑の織り手
【サンドウィッチの小宇宙】
ふたつの手のひらで包む世界
間に挟まれる彩りの断層
パンの白さは朝の曙
レタスの緑は風のざわめき
トマトの赤は陽のぬくもり
ハムの淡いピンクは温かな記憶
ナイフがそっと断面を描けば
現れる断層図は誰かの優しさ
重なりの証
ひと口頬張る
広がる旅路
酸味と甘み
塩気とほのかな苦み
それは人生そのものみたいで
食卓に置かれたこの小宇宙は
いつだって僕らを語っている
「ごちそうさま」の一言で
サンドウィッチは胃の中で星になり
エールをくれる今日が始まる
【自分の庭に咲く青】
隣の芝生が青く見えるのは
足元の土を見ていないから
靴にこびりついた泥の色
そこに種を蒔けるかどうかは
誰かではなく自分次第
枯れかけた草の先に宿る露
それだって光を受ければ
虹を抱いた一滴になる
青さは隣からやってこない
根を張り水を与えた先にだけ咲く
隣の青が眩しい日もあるけれど
僕の庭には僕の青
今日も土の匂いを胸に
ひとつひとつ耕す空の彩
【過熱中】
風の音も人の声も置き去り
手のひらだけが世界を握る
燃える瞳に映るものは
今だけ生きる瞬間の全て
時が止まり息も忘れて
手のひらに収まらない小さな宇宙
燃える瞳が切り取るのは
永遠に続く一瞬の輝き
風の音も人の声も置き去り
手のひらだけが世界を握る
燃える瞳に映るものは
今だけ生きる瞬間の全て
【天邪鬼の繭】
人混みの輪郭はぼやけてる
薄い壁一枚 世界を遮断する
「何が楽しいの?」
そんな問いを背に私は繭を編む
熱狂する人たちの目は眩しい
光を追う彼らの影を横目に
私は脆弱な静寂を好きになる
会話は服のように着られるもの
けれど私には不要だ
裸足で歩けるこの孤独の床が
誰かの輪より心地いい
それでも時折思う
この繭を破ることが出来るのは
私だけだと
【「遥かな帆」 】
夜明けの海に刻む鼓動
星々が散らばる天蓋の下
夢はまだ触れられない灯火か
迷いは足跡 踵で刻む轍
霧が見せる蜃気楼すら君のもの
希望が形を変えて映るだろう
まだ白紙の船旅
風を掴む帆は君の胸の内
帆に塗る色は君の選んだもの
ただ光が待つ遥か海の向こう
疾風迅雷 道を裂く嵐の日
春風駘蕩 優しく包む朝
そのどちらも君のもの
混ざり合う色で未来を染め上げて
荒波越えて帆を張る君よ
最後まで読んでくれてありがとうございました。
水宮 青