【詩のようなもの6編】 ドーナツと紅茶と焦燥
【ドーナツと紅茶と焦燥】
紅茶はのんびりと湯気を立てている
僕はすでに待ちくたびれてる
触ればカップはまだ熱い
けど飲むにはちょっと早い
じれったくて早くしろよって思う傍ら
君が隙を突くように
ゆっくりドーナツに手を伸ばすのを
僕は黙って横目で流し見
まったりとした時間を君は好み
僕はこのゆるい空気に焦らされるも
君の指先がドーナツの砂糖を
気にもせず払い落とす
その雑な仕草がやけに心地良く
このまったりした時間を
君の手がほぐしているように見える
残りのドーナツ半分
その輪っかの向こう
砂糖が零れ落ちる音
紅茶が冷めない間の沈黙
君の気分次第
僕はただ待ちくたびれたまま
君の動きに身を任せている
【柔さと弱さ】
君の声が優しく揺れたとき
心の奥に隠した弱さが滲み出る
触れられると壊れそうな柔らかさは
ただの脆さとは違うと信じている
ただの卑屈な弱さではないと
信じ合う為に柔さを膨らませ合い
相手を思いやる強さを宿らせる
風に吹かれ心が揺れたとき
とっておきの硬さと強さで
今が続くように指先で支え合う
【喪失と光】
喪失を知ってしまった
知る前は知っている人を
どこか神聖視するほど憧れていたのに
今となっては とても空しく下らなく
知りたくなかったとすら思う
いつもの雨音も
殴られているような気分
いつもの食事も
喉を通るまでかかる時間も倍
好きだった音楽すら痛くて
小さなホワイトノイズに包まれ
否応なく昨日の自分のままじゃ
いられなくなったから
「愛を言葉にせず光にすればいい」
僕は変わらない君の写真と手紙に
心を置くように指は文字をなぞり
窓を開けて風を受ける
鏡の向こうの自分が先に喪失を跨ぐ
明日の自分が陽の下を穏やかに歩く
【サンダーソニア】
祈りを繰り返す
火が灯るように生まれる叫び
それに愛情を含ませるのは君
そうあって欲しいとまた祈る
サンダーソニアが並ぶ庭を
走って遊んでたことを思い出し
先に大人になっていく君に
追いつきたくて
でももう追いつけなくて
「幸せだね」「おめでとう」
誰かの話し声が至る所で
祝福と黄色い声を浴びる
君のドレス姿
祈りを繰り返す
火が灯るように生まれる叫び
それに共感を呼ぶのは君
そうあって欲しいとまた祈る
【転んでもただでは起きない】
転んだ先にひとつの石ころ
膝をすりむいた痛みの中で
その小さな石を拾い上げる
「これも何かの役に立つかも」と
雨が降れば傘を持たずに濡れて
「雨降って地固まるさ」と笑う君
びしょ濡れの服が重くても
その分だけ強くなれた気がした日
焦る心に「急がば回れ」と
遠回りの道を選んでみたら
思いがけない景色が広がって
悪いことばかりじゃないなって
失敗や迷いが転がっても
それを拾って立ち上がるたびに
「転んでもただでは起きない」
それが私の道しるべのような言葉になっている
【1から2】
一人になれたよ
その為に使った時間とエネルギー
誰かと一緒になるより
ずっと多く必要で大変だった
でも迎えてしまえば快適で心地良い
何をしよう
毎日が自由で思い出を作る必要もなく
無為無策の散歩道
陽を浴びて夏を遠くにして
ぼーっと過ぎる雲を見つめて
冷めた瞳が揺れ始める
また二人になりたいよ
そう思える心をじっくり泡立てて
再び出会うことを予感して
いつもは行かない洒落た空間へ
熱を帯びた身体で走り始める