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【詩のようなもの6編】 最初の一漕ぎ



【最初の一漕ぎ】

歳を重ねると話が長くなる
小学校の校長がそうであるように
話し上手でもないのに結論だけ遠い

意識していたいね 傾聴と尊重
簡潔に完結する日常のコミュニティ

囚われ過ぎず 手間を惜しまず
適度にリバランスを繰り返すように
距離と空間 効率と無駄
同時進行する月曜日を漕いでいく

【逆算】

「お買い得」「在庫処分セール」
罠のような赤文字で染まる
ショッピングモール
目がチカチカする

年末の大掃除前に
買い溜めしておこうかな?
なんて一瞬思ってしまう自分が怖い

この後もう一回店に来る億劫さと
今買って家がモノだらけになる煩わしさ
両方を天秤にのせて揺れる気持ち

逆算すると
どっちを選んでも後悔するような
普段の生活がいかに適当かを
思い知らされてる火曜日の夜

【憧れて、流れて】

映画3本観続けて
溜め息吐きながらも
妙に心地よさが沸き立つ

冷凍食品が電子レンジで
本来の味を取り戻して
温まったように
脳みそがほぐれた感覚

メモ用紙に残った言葉を書く
口に出して身体に馴染ませる
あの場面を反芻
憧れが昨日の自分を遠くへ運び
流れるように進む水曜日

【木曜日のさようなら】

空き缶が転がり
独りを強調する街の暈

睫毛に絡む涙を
騎士のように隠す

割れた鏡越しに映る
篝火の残像

握りしめた手には何も残らず
さようならだけが静かに響いていた

空き缶は風に流されて
街はいつも通りに
廃れた空気を入れ替える
木曜日の朝

【対峙、堆く】

余力がないから
力を抜いて対峙する
名もなき家事とレシピ

ルーティンが決まっていても
堆く積まれるタスクとリスクに
どう対峙するかから考えて
眠い目を擦る鉛のような身体

頭の片隅には他の心配事が過ぎり
靴箱の奥を掃除するような気持ちで
一つ一つゆっくり向き合い
終わる頃には日付けが変わっていた
金曜日

【刹那の急須】

アンイストールされた夢の欠片が
机の隅で冷めたまま佇む
急須に残る最後の一滴を
刈り取るように掬い上げる
土曜の朝

刹那の利便性に頼る日々は
四字熟語の羅列で彩られ
「順風満帆」と嘯きながらも
心の奥 遡及する過去の残滓

沸き立つ湯気が
刹那の中にも確かな温もりがある
そう教えてくれた日曜の夜

一滴ずつ注がれる時間は
いつか誰かの命を満たすと気付く
冷めた急須の中で静かに待つ
次の朝を育むための刹那



最後まで読んでくれてありがとうございました。

水宮 青