【詩のようなもの6編】 せっかちな11月
【せっかちな11月】
夏の匂いが長すぎたが故に
せっかちな11月は秋を跨ぎ
冬を衝動買い
秋に備えてた人々も慌てて冬支度
せっかちな11月は無責任な雨晒し
どの世代も不協和音と逆張り
夏のダメージだけ残り
崩れるワンパターンの週末
急に老け込み12月の忍び足に敏感肌
冷めた目が見るのは
イルミネーションよりも
その影にある梱包材とコンテナ
冷えた経済とせっかちな11月は
ロマンチックな空間では胡座かいたまま
【付箋】
時の流れに流されないように
僕の好きな歌
君の大事な歌
付箋に書いて留めておく
裏うつりせず
水に滲まない
くっきりした文字で
忘れても忘れないように
約束もアイデアも大事な一瞬も
季節の変わり目に心に嵌るように
付箋に留めておく
【聞き手の距離】
いつからか自分の話をしなくなった
人の話を聞く方が面白いから
いつのまにか相手の目がよく見える
緊張も感情も思いのままになる
大事に思える挨拶も相槌も気遣いも
相手に合わせて共通点が増える
相手がしてくる質問の内容こそ
話したいことのきっかけ作りと気付き
自己開示より相手を優先してれば
相手との距離感は縮まっていく
【冬の夜風】
桜色の水琴窟が泣き始める
遠ざかる聞き手の輪郭の中に
リサイクルされた渇望が滴る
ドミノ倒しのように過ぎ去る季節
渇望は雪に染まり
落ちる花びらは次の季節を渡る
抱きしめられない声が一つ また一つ
水琴音と溶け合う過去
やがて未来の地平で咲く
リサイクルされた希望の花
距離も時節も超えて
ヒラヒラ散っていく今日の日
桜色の水琴窟がまた泣き始める
遠ざかる話し手の骨格の中に
リサイクルされた渇望が滴る
冬の夜風はのたうち回る
【逆襲喜劇】
笑われるために生きてきた
それが宿命と言われても
張り裂けそうな胸の中
台本通りに行かないと悟り
舞台袖で震えるピエロの靴
滑稽さに塗れた赤い鼻が
拍手の雨を待ち侘びて
道化の顔も汗ばむ夜
逆襲の幕は唐突に開き
舞台中央に立つピエロは
自嘲を燃料に火を灯し
観客の頬を笑いで濡らす
「人生は喜劇だ」
と大声で叫ぶその影が
笑いの向こうで涙を隠し
逆襲の笑顔で幕を閉じる
【誕生日塩コショウ】
目の前のケーキに刺さるロウソク
火を灯すたび増える数字が
塩コショウのように日々を彩る
少ししょっぱく 少しピリリと
ふわふわだったスポンジは
知らぬ間に硬くなり
甘さ控えめのクリームが教える
それが大人の味だと
プレゼントの箱に夢はなく
代わりに責任と昨日の失敗
ラッピングペーパーの光沢が
笑顔を掠め取る余裕をくれる
一口目のケーキの甘さを忘れるな
自分は既に萎びた苺の一つ
次の一年もピリリといこう
最後まで読んでくれてありがとうございました。
水宮 青