てぃくる 493 寄らば大樹の陰?
寄らば大樹の陰。
よくそう言われますが、今年ほどそれが裏切られた年はなかったでしょう。
何度も襲来した台風の暴風に耐えきれず、多くのどっしりした大樹が倒れました。当然、それに寄っていたものも巻き添えを食ったわけです。
ソメイヨシノに取り付いているヤドリギ。
ヤドリギには足がありませんから、芽を出せた枝の上に居座るしかありません。その枝が自分の体を支えられないほど細ければ、すぐに共倒れになります。うまく太い枝の上に腰を落ち着けることができれば、大樹の陰に寄ったことになりますね。
画像のヤドリギはわたしが毎年被写体にしていた大物で、十数年はそこにいました。桜もかなり大きな木ですので、ヤドリギにとっては安心して頼れる存在だったでしょう。しかし今年の台風で桜が倒れ、ヤドリギはその巻き添えを食ってあえなく退場になりました。
☆ ☆
結果だけ見れば、ヤドリギはとても不運のように見えます。台風が来なければ、もっと永らえることができたのにねと。でも、実は違うんですよ。このヤドリギは、寄る相手を間違えたんです。
数ある桜の中でも、花が大きく優美なソメイヨシノは代表的な園芸品種であり、各地に広く植えられました。しかし花の美しさとは裏腹に、桜の中では弱いんです。
本来桜は条件が良ければ数百年以上生き続けます。現在でも齢を経た有名な老桜が各地にありますよね。でもヨメイヨシノはその中にほとんど含まれていません。ソメイヨシノという品種の登場が比較的遅かったにしても、二百年くらいの樹齢のものはあってもいいはず。しかし桜の名所にも年を経たソメイヨシノの木は非常に少ないんです。
ソメイヨシノは傷ついたところから腐朽菌が入りやすく、腐ってもろくなった幹や枝は風に対して弱くなります。また、てんぐす病への感受性が高く、罹患するとひどく樹勢が衰えます。
画像の樹も見た目はとても立派なんですが、地際付近の幹の中は空洞。枝先にはてんぐ巣病で小枝ばかりになった部分がいくつも見られます。
百年も保たずにぼろぼろになる寄主と一蓮托生なら、受難は時間の問題です。台風被害もアクシデントのうちには入らないかもしれません。
☆ ☆
動けないヤドリギと違い、わたしたちは動けます。何を信じ、何を頼るか。寄った相手と共に退場させられたくなければ、大きなものに盲目的に依存するのではなく、それが本当に信頼に値するかを常に確かめることが必要なのでしょう。
画像だけしか残らなかったヤドリギを見て、そんなことを思ったりします。
(2018-12-26)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?