絵本担当と出版社⑦
児童向け読物のゲラ
前回、絵本のゲラ読みのアレコレについて書いたのですが、
同じように児童向け読物の校正刷り=ゲラ刷りの下読みを依頼されることがあります。
しかし、読物のゲラ読みの依頼には絵本の時とは明らかな違いがあります。
その違いについて、今回は書いてみようかなと思います。
その1つ目はゲラ原稿の送付方法。
絵本のゲラ原稿はお店に送付される事が多いのですが、
児童読物のゲラは、訪店してくる営業担当の方から直接渡され、お願いされます。
それは、小学生の児童向けの読物となると、
大人の小説に負けないくらいの原稿枚数になるからだと思われます。
この方法は、書店側には『依頼を断りにくい』というデメリットがあります。
わざわざ訪店した出版社の営業担当に対し、面と向かってその依頼を拒否するのは、なかなか難しいです。
そして、二つ目の違いは、依頼の目的。
絵本のゲラ読みは、読んだ感想を送ることが出版社から求められますが、読物の場合は少し違います。
枚数の関係で時間がかかるので、
「では、後で読んで感想を送ります」
とお話すると、
「実は今回直接お伺いしたのには別の理由がありまして…」
と切り出されるのです。
ただでさえ忙しい中で、時間がない時にこれをいわれると実は困るのですが、断る事も出来ず、結局応える事になります。
出版社によって多少の違いはあるのですが、
『新しく児童読み物を出版するにあたり、
書店においたときに売れるノウハウを具体的に教えてほしい』
これが本来の読み物のゲラ読み依頼の目的のようです。つまり、本の感想はほとんど求められてはいないのです。
このような時によく聞かれるのは、
·書店で展開しやすい判型
·児童に人気が出やすい表紙の絵柄
·書店で売りやすい刊行時期
·実際に入荷したときに売場に置きやすいpopの展開の方法
などなど。
「実際に販売している書店の人達の意見をお聞きするはとても重要な事なので」
とよく言われます。
どこまで書店の意見を取り入れるつもりでいるのかは分かりませんが、私は色々意見を聞かれれば率直に思ったことを言うようにしていますし、他の書店の方達も同様だと思います。
確かに、
色々な児童向けの読み物を扱っていて、
もう少し〇〇したら売れるだろうになぁと残念に思う本が結構あるのも事実。
例えば、低学年向けの女の子向けの本の表紙は、かわいい絵柄が必須です。
海外の書籍の翻訳もので、いわゆる“かわいくない”絵柄の表紙があると、契約の関係なのだとはいえ、もったいないなと感じます。
「表紙を可愛くすれば、もっと売れるのに」と。
そのくらい、読み物であっても絵のかわいさは重要です。
判型にしても、イレギュラーなものは扱いにくいので、それだけで返品の理由になってしまいます。
「もっと扱いやすい判型ならば…」
と書店としては思うわけです。
出版社側には色々思惑はあるのだと思いますが。
その他、
·対象の学年の割にページ数が多い本。又は少なすぎる本。
·読み物なのか、ものしり本なのか、判断がつきにくく置く棚が分かりにくい本。
·刊行時期と内容やタイトルがずれていて、新刊落ちしたら直ぐに返品せざるを得ない本
などなど。
本を出す前に、もう少し考えられなかったのかなと、書店としてナゾな本は挙げると色々あります。
出版社にも、様々な事情があるとは承知していますが、
最終的に書店でどのように売られるのか、
どういう風に売って欲しいのか、
そこまで考えているんだろうなと思える出版社の本が実際によく売れています。
特に、児童向けの読み物はそれが顕著です。
上に挙げたようなゲラ読みを依頼する出版社は、児童向けの読み物に新たに参入する所が多いように思います。
絵本でも、大人向け実用書の出版社が絵本を出し始める傾向があり、実はベストセラーを出している所もあります。
おそらく、このような出版社は、徹底的なマーケティングを行い、間違いなく売れる本を出すようにしているのでしょう。
わざわざ、時間を割いて書店に事情をヒアリングする出版社は、良心的といえるのかもしれません。
色々な苦労がある中で、せっかく本を出版するなら、確実に売れたほうが良いと思いますし、その為にお手伝いできるなら、私の意見で良ければいくらでもお話します…と、今はこんなスタンスでいます。