摘花如歌無選集《はなつまみてうたうごとくたれながし》
年ふりて傍目落ち着きたる様なれど、そはただ体力の衰微によるものにて、実はさして人となりの成熟に伴うものにてはあらず。
情感志操は未だ年端もいかぬ餓鬼郎党のまま、その溌溂に老いたる血肉の付き従わず、ただただ懊悩するばかりなれば、敢えてその懊悩を古の言の葉の律に綴り合わせ、嘆息の代わりとするも一興なりとて、二とせばかり詠み浸る。
その数、二百を超ゆ。只管暇に任せて思うまま詠みしものゆえ整理もおぼつかず、只そのままを示しおるなり。
一、
まず。愛しき愚犬の去勢に臨む旅して、五首詠む。
さぞ感傷に耐えざる想いのありたるゆえにやあらむ、中々に気障りなり。
2018/12/16 02:11
窓の外は星凍る夜
犬も猫も添い寝して見よ春の野の夢
2018/12/16 19:22
これですと女医のてのひら
精巣は瑪瑙にも似て光りおりたり
2018/12/16 19:24
君、男子と生まれ幾年
あはれ今日
そのみしるしを喪へるとは
2018/12/16 19:25
伊予の海あかねに染めし落陽の
いのち再び昇る日もあれ
2018/12/16 19:27
遣る瀬無き汝が寂寞のその果ての
彼の岸の辺に吾も行かまし
かくも感傷的なれば心情すでに去勢されたるも同様なり。
以下、五首詠み出しし勢いに唆され、調子に乗りて詠む。
2018/12/16 23:50
花の名を訊けど応えず
ただ君はうつむきており
旅立ちの朝
実にては、かかる女子は居らず。只の空想なり。
空しければ次に詠む。
2018/12/17 22:32
夜冴えて
光を垂らす三千の天の穴より
物語出づ
かつて星より出づる物語の美しさ、如何に我を魅了せしか。
されどそを語りあふ輩、昔日早々に消息絶へ、いまや記憶の底の古漬けに沈みて黙せる胡瓜の如くなりぬ。