田口ランディ『ハーモニーの幸せ』を読んで 『タヒチの思い出』
田口ランディの多くの知り合いの一人で、タヒチに移住した通称ヒコさんとの交流が描かれている。きっかけはネット。大島に行くとネットに載せたら、当時大島に住んでいたヒコさんから「僕は大島に住んでいます。ぜひ大島で会いましょう」とレスが来て、現地で会ったのが初めての出会い。
タヒチに行くことになった田口ランディが、それまで二回しか会ったことがないうえに、六年間も会っていなかったヒコに電話をかける。この辺が田口ランディの行動力のすごさ。
電話をしていて、ヒコが海辺の風景を説明してくれる。「そのとき、ほんとに電話線を通して、タヒチの空気が流れてきた。」
「言葉ってすごいね。人類最大の発明だね。音だって、空気だって、匂いだって、言葉は伝えることができるんだよ」と著者は感動する。言葉にはそんな大きな力がある。それを知らない人間には小説なんて書けないし、書けたとしても人を感動させるような小説は書けないだろう。私も一人の小説書きとして、言葉力をいつも意識しなければいけないと思った。
短い文章の中でタヒチの良さ、ヒコの人間的な素晴らしさを、読者の目に見えるように伝えられる表現力はやはりすごい。特に著者がココナッツの落ちるのを見た場面は平和の意味を教えてくれる。
「人と時間を分かち合うこと。ゆったりと友達と出会うこと。押しつけがましくなく相手を思いやること。」東京に住んでいると、つい時間に追いやられ、振り回されてしまう。タヒチでの生活と東京での生活のどちらが豊かかは言うまでもないだろう。特にコロナが流行したために人と会う機会が激減している現在、タヒチに憧れてしまう自分がいる。
「旅は魔法みたいだ。旅で出会ったたくさんの人を思うとき、自分が生きている世界の呪縛が解ける。この土地に定着してしまうことで生じる、場の力、関係の引力。そんなものを、旅は切ってくれる」と最後に書いている。
非日常の世界にいるからこそ、日常の世界に縛られている自分に気づける。今、会社を長期で休んでいる私は、五色沼や箱根、甲府へ一人旅した。(会社の仲間には怒られそうだが(笑))残念ながら友達と呼べる人は作れなかったが、非日常の世界で今までの人生を振り返る時間をしっかり取ることができた。有給休暇の取得率の低い日本人にはなかなか難しいかもしれないが、たまには数日の休暇を取って、旅に出ることをぜひお勧めしたい。きっと今までにない新しい何かに出会えるに違いない。
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