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パトリック・クェンティン『二人の妻を持つ男』読了
女性がこの本を読んだら、間違いなく序盤で主人公の男性に嫌悪感を覚えるだろう。しかし、そこで胸糞悪いと言って読むのをやめないでほしい。なんと言ってもこの作品は、推理小説史上ベストテン級の傑作であるのだから。
登場人物の性格をこれほど見事に表現した小説は他にないのではないか。とにかく人物描写が犯人と直接結びついている小説だ。
私自身が主人公のビルだったら、たぶん私もビルと同じように行動していただろう。(唯一、私だったらバーで元妻に出会った時点で顔を合わせずに店を出ただろうが、それではこの小説は成り立たない。)
この小説の教訓は、
1、自分が正しいと思って進んだ道は、結局自分にとって一番楽だから選んだ道である。
2、人間は自己防衛のためならば、自ら作り上げたストーリーを本当のことだと信じてしまう。
3、人間は自分が悪いことは認めず、他人に責任を押し付けてしまう。