くるんと「す」の字
「最近、ことだま診断に興味があってさー」
画面越しに久しぶりに対面した彼女はページに目を落としながら、「みずきって、らしくて良い名前だね」と呟いた。
「そうなの?」
「うん。"み"は流れる水で。ひとところに留まらない、くっついたり淀んだりしない、サラサラしたみずきちゃんらしい感じ」
「あー・・・確かに。あんまり愛着とか持たないから、私って冷たい人間なのかなって思うこともあるけど、それが私って感じもする」
「でしょ。」 彼女はにっこりしながら大きく頷いた。
「それで、"ず"は、濁点がつくと強調のサインね。"す"は統べるっていう字の"す"だから、何かの秩序を表すんだけど、自分が中心にいるわけじゃない感じなの」
そう言われて、思わず、ベッドにうつ伏せの姿勢から、壁に貼ったフォトコラージュを見上げる。確かこれを作った時も、"きれいに中心がない"って、少し戸惑い気味に呟かれたっけ。
もう一つ、突然脳裏に浮かび上がってきたのは、母が書く手書きの「す」の文字だった。最初の1画目の横棒が長くて、輪っかの部分は縦に細長い。母の手書き文字の中でなぜかその「す」が特別好きで、連絡帳に、提出書類に、シャーペンでいくつも書かれた「です。」や「ます。」を何度も眺めた。今でも自分が「す」を手書きする時は、母の「す」に似せようとちょっぴり頑張ってしまう。
「・・・そっかぁ。統べるって聞いて、ぱっと浮かぶのは持統天皇の"統"だなぁ。持統天皇は歴史上の人物の中でも好きな方だからちょっと嬉しい」
そう言った私を、彼女は画面ごしにまじまじと見つめて、
「最後の"き"は、五十音の中で一番好奇心が強い音って言われてて。"す"だけで持統天皇の話が出てきちゃうみずきちゃんにはぴったり」
「なるほど」
淡々としながらも強い確信を持った言い方に、思わず神妙に頷く。
自分では何ひとつわからない自分に、ひとつでも確信を持ってくれている人がこの世にいる喜びが、胸の内に静かに広がった。