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発達障害と診断された、一人の作家さんの頭の中 「あらゆることは今起こる」

芥川賞作家・柴崎友香さんの「あらゆることは今起こる」を読みました。

40代で発達障害の診断を受けた柴崎さんが、これまでの人生を振り返りながら、ADHDという特性を踏まえた上で、日々、どんなことを考え、どんな行動をされているのか、とても細やかに記されています。

発達障害は、目に見えるものじゃなくて頭の中で起きていることだから、相手にはもちろん、自分でも説明が難しい。
この本は、思っていることを言葉にして伝えられず、もどかしく感じている方、大切な人の気持ちがわからず苦しんでいる方の助けになるんじゃないかと思います。

発達障害
脳の機能的な問題が関係して生じる疾患であり、日常生活、社会生活、学業、職業上における機能障害が発達期にみられる状態をいう。
発達障害は、知的障害(知的能力障害)、コミュニケーション障害、自閉スペクトラム症(ASD)、ADHD(注意欠如・多動症)、学習障害(限局性学習症、LD)、発達性協調運動障害、チック症の7つに分けられています。
一般的には、乳幼児から幼児期にかけて、特徴的な症状を呈するものを言います。ただし小児期に症状が目立たず、学齢期や思春期あるいは成人に至って、学校や職場で問題が顕在化することもあります。

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-049.html



発達障害について、自分はまだまだ知らないことが多く、ちゃんと理解できていないんだなと感じる一方で、柴崎さんが書かれているように、発達障害といってもADHDと診断された人であっても、特性や困っていることは人それぞれということも、改めて認識しました。
ADHDの要素をもつ私の知人は、いわゆる”多動”という特性が現れているようで、じっと座っていることはあまりなく、いつも忙しなく動いていますが、柴崎さんの場合は、”頭の中で起きている多動”であり、脳内で、いくつもの考えが流れ続け、結果として表面に現れる行動は「なにもしないでぼーっとしている」んだそうです。


発達障害の人は、そうでない人と比べると、苦手なことが多いのかもしれないけれど、そうでない人だって不得意なことはあるし、何となく自分は人と違うなと感じることだってありますよね。

だから、この本は、様々な特性を抱えている人を知るきっかけになるし、共感する部分もある。読んだ後には、自分と違う他人に対して、少しだけ立ち止まって、優しく考えられるようになるんじゃなきいかなと思います。


柴崎さんが「地味に困っていること」として、方向感覚を挙げていました。ゲームのマリオカートが苦手だと。

私もマリオカートでゴールできたためしがないし、慣れない場所で地図を見て、迷いなく進んでいたら、行きたいのは逆方向だったということがよく起こります。

柴崎さんは方向音痴ではないと書いてあったので、私とは違うのだと思うけれど、私も地味に困ること。

そして、ADHDそのものの特性とは異なるようだけれど、「人に助けを求めることができない」というもの。これにも共感する。

私は幼稚園に通っていた時、友達との遊びの延長戦で、肩が脱臼してしまったことがある。凄まじい痛みの感覚を覚えていて、腕を1mmでも動かそうものなら激痛が走った。けれど、その場で泣くこともできず、先生に痛みを訴えることもできず、ひたすら我慢し続けて家に帰り、母親に「痛い」と伝えた。

他人からみても自分からみても些細な事であっても、誰にでも「困っていること」はあって、そのことを少しでも理解してくれたり、気遣ってもらえたりしたら嬉しいですよね。


私たちの行動というのは、脳の神経伝達物質の分泌が関わっている。
例えば、体を動かす時にはアセチルコリンが関わるし、腸の動きにはセロトニンが関わる。(セロトニンは幸せホルモンと呼ばれ、そのほとんどが腸でつくられる)。

そして、ドーパミンが、”やる気”や”モチベーション”といったものと関わりがあるのだが、柴崎さんが、とても面白い表現をされていました。

(詳しい説明は省きますが)ADHDの方は、ドーパミンがうまく働かないことによって、早起きや片付けが苦手な場合があるらしい。
その状態のことを、「私の脳は、励ましの歌を歌ってくれていないのだ!」と表現されていたんです。

通常は、部屋が片付いたら気持ち良いなとか、ちょっとしたことでも、「これをしたら気分が良い」ということがわかっているから、行動に起こせる。それは、脳の中で、コーラス隊が励ましてくれているのだと。
ですが、柴崎さんの場合は、そのコーラス隊が寝ているのかぼんやりしているのかで、ちゃんと歌ってくれないのだと。

この考えに至るまでにはいくつかの段階を踏んでいるのですが、それは、ぜひ本を読んで確認してみていただきたい。
あー、可笑しかった。
小さなコーラス隊のみんなが頑張ってくれているところを想像したら、気持ちが穏やかになれますね。


今は、調べれば色々と情報は手に入るけれども、その情報が全ての人に当てはまるわけではないんですよね。
発達障害も病気も、みんなそれぞれの性格だって、持って生まれた遺伝的要素に加えて、幼少期からの生活環境、食事やストレス等、様々な問題が絡み合って、症状や行動に現れているわけで。

自分以外のことはわからないんだなと再認識しました。
それを理解した上で、困っている人には手を差し伸べることで、一緒に生きていけるんだなと。

「発達障害という診断名もそれに関する知識や手立ても、困っている本人のためにあって、それ以外ではない。」

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