『素敵な圧迫』が癖になる
本屋大賞の実行委員をやっていると「本屋大賞って、女性に受ける本しか取れないんでしょ?」と聞かれる事があります。書店の店員=女性 というイメージがその一因だと思うのですが、今回20回記念フェアで小冊子を作り過去のノミネート作を振り返ったところ、ある人に「こんなにゴツゴツした本も選んでたんですね」と驚かれました。
*その小冊子、もう現物は入手困難ですがこちらのHPからダウンロード出来ますのでぜひ見てみてください。ノミネート作まで全部読んだら200冊+α
昨今の本屋大賞のノミネート作家の中で、その「ゴツゴツ」代表の一人と言えるのがこの呉勝浩さんですね。前回も『爆弾』がノミネートされてます。
ワタシ個人としては、呉さんの本は『スワン』にしろ、『爆弾』にしろすごいなーとは感じてたんですが、『スワン』でじゃんじゃん(かつ、あっさりと)人が死んでくインパクトが強烈すぎて、読み直したい、余韻にひたりたい、という感想は持てなかったんです。
と、いう心証からの短編。
誰もが心に持つ毒、日常生活ではそういったことを理性や常識が押し殺して淡々と生きているわけですが、誰しも多かれ少なかれそういうものを抱えているのではないかと思います。その様々な「毒」を増幅していくような話が多かったという漠然とした印象が残っています。
そんなわけで、後味はやっぱり気持ち悪いんですけど、癖になる面白さがありました。あくまで後味という印象では、小田雅久仁さんの『禍』を読んだ時に似ていました。
こういう本に出会うと、作家たるもの文章が上手いのは当たり前で、人の想像力を凌駕してくるなんかを持ってないとダメなのねー。なんてなことを考えてしまいます。表題作の『素敵な圧迫』だって、子どもの頃狭いところに入ってなんか楽しかったようなそんな気持ちをここまで転がすわけで、まあすごいです。
ちょうど新刊も出たところだし、今後の動向が気になる作家ですね