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『スピノザの診察室』で野心に追い越されながらも、矜持に生きる人たちのことを考えています

主人公はある理由から、大学病院から離脱し町の病院で勤める道を選んだ雄町先生(マチ先生)。この先生、元々は凄腕の医者で内視鏡界隈ではめちゃくちゃ難しい手術を成功させてきた将来嘱望株だったのです。なので、大学准教授という立場にいる花垣は「大学に帰ってこい」というメッセージを送り続けています。

そんな花垣が放った「野心はなくても矜持はある。そうだろ?」という言葉にドキッとさせられました。そこにしっかりしおりを挟み込み、本を読み進めながらもなんどかしおりの場所に戻って言葉を確認したくらい。

市井で、人の最期と向かい合っているマチ先生ほか原田病院の面々。白い巨塔バリの大学組織で生きている医局の医師たち。
まさにこの小説は野心と矜持の物語でした。
医療にかかわらず、時として、いや、しばしば、矜持は野心に追い越されていきます。多分これはどんな仕事をしている立場でも、どこの会社でも多かれ少なかれあることではないでしょうか。
また、コロナの時代。医師たちの矜持が不条理なまでに世間の攻撃にさらされてきたのを目にしていました。だからこそより心に響くところがあったのかなと。もうね、電車の中で涙こらえるのに必死でしたよ。

野心に追い越されながらも、持ち場を矜持で守り続けた人たち。いろいろなことを飲み込んで戦っている人たちでこの社会は成り立っているんだ。と、そんなことを考えさせられた作品でした。

SNSが暴力的な場所になってしまっている中、「物語」が心の奥底まで届けてくれるものがより重要になってくるのかもしれません。読み終わってからしばらく経ついまもまだ熱いものが胸に残っています。

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