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『スタッフロール』では映画技術への愛が爆発していた

女性が社会で活躍できていないというのは、未だにこんなに大きな問題なのだから、戦後なんてもってのほか。アメリカだってきっとこの小説に書かれたような感じで「女の子は家で良い子にしている」が推奨されていたんでしょう。その狭い世界から飛び出すために力を貸してくれたのは「白馬の王子さまではない」というところをすごく面白く感じました。

前半の主人公のマチルダは、両親の友だち(映画関係の仕事をしていた)の影響で映画の世界に強い憧れをもちます。彼女が特に興味を持ったのが特殊造形の世界でした。とはいえ、そんなこと親には言えない。言えない中で両親を騙すようにしてその仕事を始めることになります。その時に手助けしてくれたのがダイナーの同僚だったエヴァンジェリン。チョイ役なんですけど、彼女の歴史には常に寄り添っている存在になります。あとは、辛い修行生活を支えてくれた近所のおばちゃん。
逆に、本来ならば白馬の王子さまになるんだろうな、、と思った男性キャラは読者にとっては憧れの対象にならないような描き方をされているところも面白い。確かに世界を見せてくれた存在ではあったのだけど、ここに依存関係を作らなかった(のか、私がそう読んでないだけなのか)ってのは作者の意図もあるのかなあ。興味あるなあ。

このハリウッドの特殊造形師マチルダと、現代のCGクリエイターヴィヴィアン。その二人の様子がパートを分けて描かれます。
戦争の影響
女性が活躍するということ
スタッフロールに名前が入らなかったこと
CGの技術の向上を目にした特殊造形師の話
そういうテーマがこれでもかと盛り込まれた小説でした。とにかく働く女性は大変!そして新しい技術と折り合いをつけたり向かい合っていくのも大変!

冒頭はマチルダのパートなのですが、彼女は自己肯定感が低いのでまあよく屈折するんですよ。私などはそこに苛立っちゃって仕方なかったのだけど、そういうキャラを描こうという試みであったなら大成功だと思います。
この小説で一番作家の力を感じたのは、何かに夢中になるシーンでした。『2001年宇宙の旅』の特殊造形の何がすごいのか、熱を持って語られるパートを読んだあとは映画を見たくなったし、これまで見てきた映画の見方も大きく変わりそうです。その、技術を見てワクワクしている登場人物たちの目線がこちらに乗り移ってきたかのようでした。

小説好きにはもちろんですが、映画好きにこそ読んで欲しい作品でした。

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