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2024年2月の記事一覧
描くことを描いた前作、描かないことを描いた今作『一線の湖』
『線は、僕を描く』の続編。初めてこの『線は、僕を描く』というタイトルを聞いたとき、「僕は、線を描く」の間違いじゃなくって? と聞き返したのを思い出しました。
そして、読み終わってその意味を知ってそれだけで泣けたのも。
主人公の大学生、青山霜介くんは前作で両親を交通事故で失うという大きな不幸に見舞われています。そんな不幸と喪失感からの恢復を描いたのが前作。
物語は地続きですが、読む方にとっては2年
サラリーマンが竜崎に憧れる理由について改めて考えてみた『一夜:隠蔽捜査10』
なぜ、人は竜崎に憧れるのか。
多分「正しい事を真っ直ぐ言えるから」なんじゃないかと思うのです。それくらい「正しい事」を言うのって難しいことなのですよ、きっと。
サラリーマンをやってると、多かれ少なかれ日々何かを飲み込んで生きてるわけで、空気を読まずにそれを口に出せる強さがあるかどうかの違いくらいしかないんじゃないですかね。
それくらい「わかっていても出来ないこと」は多く、それに気づかずに正義の
同時代を生きてきた駒子に会えた『1(ONE)』
入社して間もない頃、とにかく出版社の名前や本の名前を覚えなきゃいけない、と、やっていたのが棚を凝視するくらい見ること。そもそも、本の仕事をしよう、と決めたきっかけの1冊が北村薫の『スキップ』だったので、文芸書の「き」のあたりには立ち止まる時間が長くなるんですよ。北村薫の新作出てないかなー…なんて。当時は日常の謎流行の時代だったので、その近所にあった「かのうともこ」とか「きたもりこう」とかを順々に読
もっとみる『スピノザの診察室』で野心に追い越されながらも、矜持に生きる人たちのことを考えています
主人公はある理由から、大学病院から離脱し町の病院で勤める道を選んだ雄町先生(マチ先生)。この先生、元々は凄腕の医者で内視鏡界隈ではめちゃくちゃ難しい手術を成功させてきた将来嘱望株だったのです。なので、大学准教授という立場にいる花垣は「大学に帰ってこい」というメッセージを送り続けています。
そんな花垣が放った「野心はなくても矜持はある。そうだろ?」という言葉にドキッとさせられました。そこにしっかり