螺旋階段 2

一段一段ゆっくりと
登る螺旋階段

けれど以前の様に
足元だけを見て歩くのを
少女はやめました

「前をみて歩こう…」

そう決めたのです


少女の目に
少しだけ力が宿りました

どれ程の階段を登ったのか…

幾度の夜を超えたのか…

何度も繰り返し見える景色
螺旋階段はどこまでも
どこまでも続いている様に見えます


少し嫌気がさした少女は
ある踊り場で座りこみ考えました


また進むのか…
もうここでやめるのか

ぼんやりと見えない空を眺めながら
少女はハートの羅針盤に
意識を向けました


ハートの羅針盤は
登る方向を指し示します

まだ登るのか…
と、大きな溜息を吐いた時

どこからともなく
白い羽がフワリと舞い落ちてきました

白い羽は少女の掌にのり
それからまた数段先の階段に舞い落ちました
まるで先に進みなさいと言うかの様に…


少女は階段を数段登り
羽を拾いました

そして、目の前の景色を見ると
ほんの少し景色が変わっていて
木に絡まったヘビは
只の枯れた蔦だった事が分かりました


あぁ…なんだ
蔦だったんだ

今度は安堵のため息を
また1つ吐きました


少し安堵した少女は
羽を片手に階段を登り始めました

「私は今まで何段階段を登ったんだろう?」

そう思った少女は
登る階段を数え始めました

1.2.3……14.15……59.60……101.102.103…

104段目を登った時です


目の前に今度は
ステンドグラスの小窓の付いた
木の扉が現れました


辺りを見回しても鍵はありません


扉の向こうから微かに聞こえる音は
美しい音が重なり合った音色の様です


少女は思い切って扉を
開けて見る事にしました


音もなく静かに
開いた扉の向こうには

柔らかな光の元で
想い想いに過ごす
柔和な笑顔をした美しい
女性達の姿がありました


少女は、その女性達の美しさに
自分の薄汚れた姿を恥ずかしく思い
近くにあった大きな木の影に
そっと隠れました


暫くの間
少女は木の影から
女性達の事を眺めていました


するとその中の1人が
少女に気が付き、少し近付いて
優しい笑顔で手招きをしました


少女は始め驚き
また木に隠れようとしましたが
その女性の優しい微笑みに導かれ
俯きながら…おずおずと…
その女性の元に近寄りました


その女性は不思議な力を持っていて
少女に手を翳しました

すると女性の手から眩い光が差し
少女にその光が当たると
薄汚れていた少女は光に包まれ
その光が消える頃には
少女は綺麗な身姿になっていました


少女は驚きながらも
女性にお礼を言い
今まで起きた事を話しました


すると女性は言いました
ここでは皆が想い想いに好きな事をして
それを他の人と分かち合い
豊かさを循環しているのだと


それを聞いた少女がもう一度
周りを見渡すと、確かに
楽しげに物を作っている人や
誰かに光を翳す人や
美しい音色で皆を癒す人

色々な人々が関わり合いながら
想い想いに時を過ごしている様でした


少女はそこがとても素敵な場所だと分かり
そこで出会った女性達と話をしました

すると出会う人、一人一人が優しく
とても美しい心を持っている人達で
少女は沢山の人の力を借り
みるみる元気になり力を取り戻して行きました


ある日少女は
その場所で誰よりも輝く女性が
少し高い石段に立ち
何かを話しているのに気が付きました

少女は急いでその女性の下に行き
女性の話に耳を傾けました


女性の話は

この扉を開けられし者は
ここに縁を成す者
ここに導かれし者は
これから何処に行こうとも
真からハートが望む時
いつでもこの場に戻る事が出来る


と言う話でした


その言葉を聞いた少女は心の底から安堵し
ハートが満ち満ちていくのを感じました


少女はそこで
仲間との語らいを楽しむ時を
どの位過ごしたでしょう

いつの間にか少女の表情は
強ばった笑顔から
安堵に包まれた柔らかな笑顔に
変わっていました


ある日少女が
草原を1人で散歩していた時です
どこからともなく吹く風と共に
目の前にサーっと霧がかかりました

少女が前をよく見ようと
目を凝らすと霧の中に薄らと
あの螺旋階段の様なものが見えました

少女は始め幻かと思いましたが
目を凝らし一歩一歩近付いてみると
やはりそこには螺旋階段がありました

そしてその先には以前
螺旋階段から見た風景があったのです


少女は少し迷いました
螺旋階段を登ってしまったら
もうここには戻れないのでは無いかと
不安になったからです


けれどその時
少女のハートがドクンッと言い

誰よりも輝く女性が
言っていた事を思い出しました

ハートが真から望めば
いつだってここに戻れる

と……


そして少女のハートは
この階段を登れと言っているのです

少女は躊躇わず登り始めました

階段を十数段登ると霧が晴れ
以前と同じ様に深い森がみえました

少女が深い森を見ると驚く事に
森は以前見た景色とは違って見えました


薄暗く鬱蒼とした木々は
もう少女の目線の下にあり
空の青や温かな光が差し
木の上の方に居る鳥達の
囀りも聴こえてきます


今まで恐れていたものの
本当の姿を知った少女は
先に何があるか分からない
不安は消えないけれど…

以前の様な恐怖に
襲われる事はありません

少女は柔らかな表情で
ハートを感じながら
一段一段階段を登りました


一つの螺旋を登り切る頃
階段の手摺りに
1人の青年が座っていました

青年は少女を見つけると
屈託のない笑顔で

「やっと来たな!」

「ずっとお前の事を
待ってたんだぞ」

と、少女に言いました


少女はキョトンとした表情で
青年をみました

すると青年は

「なんだ…忘れたのか⁈……」
「この先を共に進むと言う約束を…」

と、少し困った笑顔で
少女に問いかけます


少女は思い出せずに
申し訳ない様な
困った表情で俯きました


そんな少女をみた青年は
小さな溜息を吐きながら
笑って少女の手を握りました


青年が少女の手を握ると…

温かな光が少女の手に宿り
その光が手からハートに移動して
ハートの中に収まりました

すると不思議な事に少女の脳裏に
忘れていた青年との約束をした
映像が映画の様に流れ
少女は青年との約束を思い出しました

約束を思い出した途端
少女の頬には幾つもの
涙の粒が流れ落ちます

流れ落ちる涙を拭いながら
青年は少女をそっと抱きしめました

少女の涙が止まる頃
青年は少女の額にキスをし
2人は黙ったまま手を繋いで
螺旋階段を登り始めました

2人の間に言葉は要りませんでした


まだ果てしなく続く螺旋階段

けれどもう、恐れる必要も
後ろを振り返る必要もありません


隣にはいつも青年が居て

何があっても助け合う事が出来ます


ハートが望めば
いつだってあの
温かな場所に戻れます

少女は青年と共に
ただ螺旋階段を登りました

螺旋階段の先が
いつか繋がる光の世界に
辿り着くまで。


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