#19 名をへくそかずらとぞいふ花盛り 虚子
この花、屁糞葛と呼ばれている。畑の周囲に咲いている。
まこと、命名というのは、慎重にしてほしいものだ。
名を へくそかずらとぞいふ 花盛り 虚子
屁糞葛という呼ばれ様は、茎や葉を揉むと悪臭がすることからだ、その悪臭の素は、確かに屁の成分と同じだという。
しかし、和名には、花の内側の赤色がお灸をすえた跡に似ることから「ヤイトバナ(灸花)」、また、筒状の小花を田植えをする早乙女の花笠に見立てた「サオトメカズラ(早乙女葛)/サオトメバナ(早乙女花)」などというのがあるそうだ。
虚子の句であるが、意外にも可愛らしい小さな花の盛りに目をとめて、屁糞なんてちょっとねえと、同情しているようだ。
自分は、このごろ虚子の句をいいなと思うことがある。というより、とうていかなう相手ではないと感じる。虚子にかかっては、日常のささいな事々が、軽々と俳句になってしまう。勿論つまらないと思う句もたくさんたくさんあるのだが。例えば、この上に揚げた屁糞葛の句とて、凡句といえば凡句である。それでも、伝わることがある。
そういう意味で、一つの句として整えきるということを、不断にやってゆくというのは、学ぶべきことのひとつだろうと思う。
画像は、我が菜園のタラノキに絡みついているものだが、早乙女葛と呼ぶ方が似つかわしいと思うのだ。
例のオオイヌノフグリと並んで、じつに困った命名ではないか。
さらに、この屁糞葛は花の後小さな果実となる。冬場には茶色の小粒が密する。リースの材料によく用いられたりする。
この実であるが、これもつぶすとその臭気がたつのだそうだ。そこで、実を「すずめのたご」と云うのだそうな。その「たご」とは「肥桶」のたごであるだろうという解釈を呼んだことがある。一応付け加えれば糞尿を入れて運ぶ桶である。
何と花から実まで、酷い呼ばれようはないか。人の口とはなんとも残忍なものだ。そう改めて思うのだ。
さて、楸邨先生の句。
へくそかづらの花ひきだして嗅ぎゐたる 加藤秋邨
自分と云えば、嗅いだことが未だない。