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ため息俳句 桜もち

とりわくるときの香もこそ桜餅 万太郎

 さすがに久保田万太郎の桜もち。

 和菓子屋に立ち寄ると、どうしてもこの時期になると、桜もちに目がいってしまう。
 桜もちといえば、向島の長命寺の桜もちが有名であるが、上の万太郎の桜もちのそこの店の物だったかもしれない。
 端唄の文句にこんなのがある。

花のさかりは、向島、いきなおかたと ふたりづれ、
    かへりのおみやは、ちょんちょん長命寺の、櫻もち。

                       (日本音曲全集 第4巻)

 長命寺の桜もちといっても、お寺で売っている訳ではなくて山本屋というお店である。そばにこれも有名な「言問団子」が店を開いていて、そこには幾度か立ち寄ったことがある。
 長命寺というお寺には、芭蕉の「いさゝらば雪見にころぶ所まで」の句碑があり、文化7年には小林一茶も詣でているという。
 明治21年ごろは、この境内にあった桜餅屋の二階に子規が下宿していて、この店の娘さんと恋愛したとか。
 
 なんだか、こんなことを書いていたら、長命寺の桜餅、食べてみたくなった。今日から春の陽気になるという、暇をかこつ毎日だからお上りさんになって、向島あたりを歩きに行こうかと、そんな気にちょっとなってきた、・・のだが、さて、腰を上げることができるだろうか。
 どうも、思うだけで終わることが、増えてきた。

茶を淹れて包みひらげば桜餅  空茶