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ため息俳句 目薬

 目の衰えを感じている。
 元々が乱視が入った近眼である。中学生のころから眼鏡をかけ始めた。
四〇代の中頃から老眼気味になって、程なく遠近両用の眼鏡を仕事中はかけるようになった。
 この頃は、その遠近両用はやめてしまって、近眼用・老眼用・デスクトップ使用時の眼鏡、運転時の度の入ったサングラスの四本使いになった。
四本にもなると、必ずどれかが行方不明になっている、困ったものだ。
 さてさて、目が疲れると云うより少しばかり根を詰めて細かい文字やら緻密な画像を見ていると、だんだん見えづらくなるような感じがする。目が熱をおびて、目玉が膨張してくるような感じに囚われる。そのうち、視界がかすんだようになる。重苦しくなる。
 そこで、点眼薬を手近に置くようになった。目の疲労を癒やそうというわけだ。目に点すと、さっぱりする。どのような成分によるのか知らないが、清涼感を感じる。それで随分気持ちが軽くなって、また作業にもどれるのだ。
 ただ、目薬を点すのが、ほんとに下手、不器用だ。家にいるときは、必ず座布団などを枕にして天井に向き合って仰向けになる。そうして、慎重に薬を目に点すのだが、いつも逸れてしまった気がする、薬が目に沁みてきて、そこでようやく「できた」と安堵するのだ。やっとのことで、薬が目に注がれるれると、次には涙が湧出してくる。手の届く所にテッシュの箱を置いておくので、そこから一枚取り出し、目の回りをかるく押さえて、目から浸出した水分を回収する。ようやく一連の動作の完了である。
 なんだか、大げさ過ぎないか。椅子に座った普通の姿勢で、頭を上方に向けて、ちょこちょこと点眼できる人がうらやましい。
 日に数度、そういうことで、仰向けに横になるのである。ということは、外出時の点眼は、不可能となっている。
 弱った。

木犀の今朝香りけり点眼す

薬沁むつむれば秋の昼下がり

書にんで目薬をす夜寒かな

点眼液黄金色こがねいろなりちろろ虫

 (注・「ちろろ虫」は蟋蟀こおろぎの異称。