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話を3D映画に戻す前にもう少しワイドスクリーンの話を。
3本のフィルムを同時上映して立体感を強調していたたシネラマが70mmフィルム1本で上映できるスーパーシネラマ方式になり15本の劇映画が制作された。
1本目は『おかしなおかしなおかしな世界』(1963)。
知名度NO.1は『2001年宇宙の旅』(1968)。
【きっかけ屋☆映画・音楽・本・ときどき猫も 第18回】
『おかしなおかしなおかしな世界』の監督は『ニュールンベルグ裁判』(1961)や主題歌「ワルチング・マチルダ」が耳に残る『渚にて』(1958)が印象ぶかいスタンリー・クレイマー。
核戦争で北半球は全滅してオーストラリアにわずかに生きのこった人たちに死が訪れるまでの日常を淡々と描いた反戦映画『渚にて』では廃墟となった町並みに「友よ、まだ遅くはない」という横断幕がかかげられている皮肉なラスト・シーンが今でも頭に焼き付いている。
社会派クレイマー監督が人気コメディアンを集結させて派手なカー・アクションを折り込んだカラー大画面のドタバタ喜劇が『おかしなおかしなおかしな世界』。
メイン・タイトルバックは名手ソール・バスによるシネラマ初のアニメーション。
『渚にて』、『ニュールンベルグ裁判』、『手錠のままの脱獄』などモノクロ画面で社会の暗部を静かにえがく社会派の巨匠スタンリー・クレイマー監督がカラーで? シネラマで? スラップスティック(ドタバタ喜劇)を?
これは観にいくしかない。
ハイウェイを暴走していた一台の車が崖から落下した。
通りがかった4台の車に乗っていた8人の男女が様子をうかがいに崖の下に降りると瀕死のドライバーは「大きな公園のWの字の下に隠した35万ドルをお前たちにあげる」と告げて息をひきとる。
欲にかられた8人の凄絶な大金探しレースが始まった。
出演者のなかで唯一のスターはスペンサー・トレイシー。
ミッキー・ルーニー、エセル・マーマン、ミルトン・バール、テリー・トーマス、ジョナサン・ウィンタース、バディ・ハケット、シド・シーザーなどハリウッド映画常連コメディアン・オンパレード。
ハデなカーチェイスから始まり、川に沈没してしまう者、操縦できないセスナで飛びたち巨大看板につっこむ者、ひとりで家一軒ぶちこわす者、超ワイドスクリーンせましと無声映画お約束のスラップスティックがこれでもかこれでもかと展開される上映時間2時間40分はドタバタ大好き人間にとって極めつきのごちそうだ。
三ばか大将、バスター・キートン、ジェリー・ルイスたちのカメオ出演もご愛嬌。
日本でも放映された人気テレビ・ドラマ『マンハッタン・スキャンダル』で歌姫ピンキー・ピンカムを演じたドロシー・プロヴァインも素敵だったがなんといってもうれしかったのはテレビの『ディック・パウエル・ショー』の『トマトの値段』で強烈な印象を残したピーター・フォークがタクシー運転手の役で登場したことだ。
『トマトの値段』の主役ディミトリー・フレスコ(ピーター・フォーク)は朝早く港に荷揚げされたトマトを市場まではこぶ運送会社のトラック・ドライバー。
一番乗りで町にもどらなければ高い値段でトマトは売れない。
荷を積み終わり意気揚々と港を後に今朝は一番乗りで町に向かって疾走するディミトリーは道端で立ち往生している妊婦を拾ってしまう。
早く町に戻らなくてはならないが妊婦をそのまま見捨てるわけにもいかない。
彼女を乗せて病院を探し始める人のいいディミトリーだがあいにくの日曜日で開業している産院が見当たらず右往左往している彼の横をライバル会社のトラックが走り抜ける。
この瞬間ディミトリーは競争に負けた。
妊婦をぶじに産院に送り届けたが競争に負け町にむかうディミトリーが見かけたのは道路わきに車を止めてパンクを修理しているライバルの姿だった。
笑顔をとりもどしてライバルの横をさっそうと通りぬけるディミトリー。
まるでウサギとカメの物語だ。
葛藤でゆれ動く人情味あふれる運転手をピーター・フォークが熱演した。
このテレビドラマで多くの主演男優賞を受賞したピーター・フォークはスターダムを駆け上ることになる。
その後シナトラ一家が勢揃いした『七人の愚連隊』(1964)ではギャングの親玉。1908年に実際に開催されたニューヨーク~パリ自動車レースをモチーフにしてトニー・カーチス、ジャック・レモン、ナタリー・ウッドが主演した『グレートレース』(1965)では間抜けな助手役がハマっていたピーター・フォークが一気にブレイクしたのは1968年から始まったテレビドラマの『刑事コロンボ』。
コロンボ人気の一端をになったのは声優の小池朝雄。『トマトの値段』も小池朝雄が吹き替えしていたことを後になって知った。
この続きはまた明日。
明日は85年前に音が人の体を癒すことを書いた童話作家のことなどです。
明日もお寄り頂ければ嬉しいです
連載第一回目はこちらです。
第1回 亀は意外と速く泳ぐ町に住むことになった件。
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