わずか十数ページの短編からとびっきりの恐怖を生み出した天才。
第28回に書いたように映画が大ヒットしたにも関わらず原作者と監督とが犬猿の仲になることもあるので原作と映画化された作品の関係も微妙だ。
原作を超えた映画は少ない。
スティーブン・スピルバーグ監督の『激突』(1971)は原作を超えた数少ない作品の代表だ。
原作はSF作家リチャード・マシスンの同名の短編。
『きっかけ屋☆映画・音楽・本ときどき猫も 第31回』
リチャード・マシスンは、レイ・ブラッドベリ、ロアルド・ダール、スタンリイ・エリン、ジャック・フイニイ、フレデリック・ブラウン、シオドア・スタージョンなどのSF、ホラー、ミステリで活躍する個性的なアメリカの作家を集めたハヤカワ書房の異色作家短編集で知った作家の一人だ。
「激突」はわずか十数ページの短編で物語もシンプル。
対向車とすれ違うことなど滅多にないうら寂しいカリフォルニアの砂漠をつらぬくハイウェイを走っていた主人公のセールスマンが前方をのろのろ走る薄汚れた18輪タンクローリーを追い越したことから物語は始まる。
追い越されたタンクローリーはすぐに主人公の車を追い越してのろのろ運転を続ける。
あきらかに嫌がらせだ。
主人公はふたたび急発進してタンクローリーを追い越すとタンクローリーは150キロで一気に爆走して再び追い抜く。
主人公の車を追い抜くと今度は蛇行運転で邪魔をし始める。
抜きつ抜かれつしているうちに画面は殺気を帯びて来る。
巨大なタンクローリーがだんだん化け物に見えてくる。
怒り狂ったタンクローリーは主人公の車に体当りしてはじき飛ばそうとする。
確実に殺意が芽生えている。
誰も通らない閑散とした真夏の片田舎のハイウェイで命が狙われる悪夢。
タンクローリーの運転手が一切姿を見せない演出が恐ろしさを倍増する。
平凡な日常の暮らしが突然恐怖に襲われるヒッチコックのスタイルを踏襲している。
シンプルな話をもとに74分の息づまる攻防戦が描かれているこのテレビ映画は日本では劇場公開された。
2週間たらずで撮影したこの低予算映画は73年第1回アボリアッツ・ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞する。
このスタイルでタンクローリーをサメに変えて世界中で大ヒットさせたのが4年後の『ジョーズ』(1975)だ。
『激突』(1971)、『続・激突!カージャック』(1974)に続く三本目『ジョーズ』で、スティーブン・スピルバーグは世界的なヒットメーカーとなる。
登場するのは役者一人と車二台。
最初から最後まで舞台は砂漠のハイウェイ。
一流の映画を生み出すのに必要なのはスターでもお金でも、トリッキーな映像でもなく、独創的なアイデアと、映像の力を知りつくした演出家の想像力だということを25歳のスピルバーグが教えてくれた。
スピルバーグのオススメはこの6作品です。
◎『激突』(1971)
◎『続・激突!カージャック』(1974)
◎『未知との遭遇』(1977)
◎『太陽の帝国』(1987)
◎『シンドラーのリスト』(1992)
◎『プライベート・ライアン』(1998)
この続きはまた明日。
明日は『きっかけ屋アナーキー伝』という電子書籍発売までの長い道のりについてです。
お寄り頂ければ嬉しいです。
連載はここから始まりました。
電子書籍を販売しています。
Kindle Unlimitedでもお読み頂けます👇
ブログ「万歩計日和」です。