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世界で一番退屈な小説を映画にした監督の話。
スタンリー・キューブリック監督の好きな作品はと尋ねられたら『2001年宇宙の旅』と多くの人が答えるだろう。
ぼくは違う。
『2001年宇宙の旅』は公開後かなりたってから観たためか面白い映画だったという感想でしかない。
『きっかけ屋☆映画・音楽・本ときどき猫も 第27回』
一番好きなキューブリック監督作品は『バリー・リンドン』。
一番面白かったのは『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』。
長いタイトルだけど映画史上最長のタイトルは通称『マラー・サド』と言われている作品だ。
『マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺』
フランス革命時に風呂場で殺されたジャン・ポール・マーラー殺害事件(1793年)を精神病院に入院していたマルキ・ド・サドが患者たちに演じさせたという設定のペーター・ヴァイスの演劇(1908年)をピーター・ブルックが映画化(1967年)した。
何が正常で何が異常かということが問われるので精神病院を舞台にした話は面白い。
精神科医で小説家の北杜夫の短編「もぐら」を思い出す。
精神病院の患者たちのリクリエーションの一つに近所の畑を荒らすモグラ退治がある。
モグラ退治の模様を患者の一人が映画に撮ろうと言い出し患者の中からスタッフが選ばれる。
テスト撮影の上映会に集まった患者たちは自分や仲間がスクリーンに登場するたびに大喜びしたり照れたり大喜び。
味をしめた監督は精神病院の黒澤明を目指すと宣言して映画づくりにのめりこむ。
ところがなかなか映画は出来上がらない。
映画に出演することがリハビリとなり軽度の患者たちは平常心を取り戻して次々と退院してしまうからだ。
その中で監督一人だけがどんどん病が重くなるというお話しだ。
何が異常で何が正常か。
一筋縄ではいかない永遠のテーマだ。
『バリー・リンドン』に話を戻します。
スタンリー・キューブリック監督はNASAがカールツァイスに特注してつくらせた人間の目よりも明るいレンズを映画用に改造して撮影した。
中世の貴族のお城での生活を観客に体現してもらうためだ。
夜の室内シーンをローソクの灯りだけで撮影し、中世のアイルランドとイングランドの風景、人々の生活をリアルに再現している。
過去に連れ戻してくれるタイムマシーン映画なのだ。
原作は英国の作家ウイリアム・サッカレー。
この原作を選んだキューブリック監督は「世界で一番退屈な小説を映画にする」と宣言した。
アイルランドの農家に生まれた主人公がイングランドにわたり怪しげなギャンブラーの手下になって金の力で貴族界にのし上がり放蕩の限りをつくすが決闘によって左足を切断。
貴族界を追われて老後さびしく片田舎で療養生活をおくるまでを描いた185分の大作だ。
新宿の名画座で偶然観た。
キューブリックが創りあげた息づまるような映像美にぼくは酔いしれたが、監督のしかけた魔法にかからない人にとっては退屈この上ない映画にしか見えないだろう。
アカデミー賞の撮影賞、歌曲賞、美術賞、衣裳デザイン賞を受賞して評価は高かったが興行成績はふるわず、映画ファンの間でもあまり語られることはないけれど、本物の天才によって創られた世紀の傑作であることは確かだ。
この映画でキューブリックは大きな負債を負った。
毎回先鋭的な文学的作品を原作にとり上げるキューブリックだが次回作は是が非でもヒットを出さければいけない。
『スパルタカス』(60)、『2001年宇宙の旅』(68)、『時計じかけのオレンジ』(71)で名声を得ていたスタンリー・キューブリックの名前を世界的ヒット・メイカーとして知らしめた『シャイニング』が完成した。
この続きはまた明日。
明日もキューブリック監督の話が続きます。
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