絶世の美少女と白夜のスカンジナビア半島を一周した件。
二番目の長旅は女優の石原真理子嬢との北欧一周の旅だった。
映画『跳んだカップル』でデビューした石原真理子(現・石原真理)の写真集を学研「Momoco」編集部とキティで共同制作することになった。
【きっかけ屋☆映画・音楽・本ときどき猫も 第35回】
グアムやハワイで一週間ロケして水着写真を撮るようなお手軽なタレント本ではなく、石原真理子の魅力を満載した鑑賞にたえる写真集にしてもらいたいと会社から命じられた。
ロケ地を検討した結果、美少女の面影をのこす清楚な彼女のイメージにふさわしい白夜のスカンジナビア半島をロケ地にえらんだ。
観光地をバックにしたお姫様的カットではなく、彼女の汗を感じさせる動きのある写真を撮りたい。
ヨーロッパ最北端、太陽の沈まない北岬をめざして石原真理子が車でスカンジナビア半島を北上するという設定にした。石原真理子はさっそく教習所に通い始め取材旅行直前に免許取得という泥縄さわぎ。
さて肝心のカメラマン。
タレント専科ではなくドキュメンタリーのカメラマンを探していた時、小学館の編集者島本脩二さんからブエノスアイレスや東南アジアを撮りながら文芸誌のグラビアで著名な作家を撮影している小澤忠恭さんを紹介された。
一ヶ月かけてスカンジナビア半島を一周する取材が始まった。
1982年7月16日。当時北欧への直行便はなかった。午前11時半。機内にカレーのニオイの立ち込めるパキスタン航空PK751便は成田を飛びたった。どう考えても北欧に向かう雰囲気ではない。北京、ラワルピンジ、ドバイ経由南回りで約30時間後コペンハーゲンのカストロップ空港に到着。
8名のクルーに石原真理子を加えた9名は2台のレンタカーに分乗。沈まぬ太陽をめざして白夜のデンマーク、ノルウェー、スエーデン、フィンランドの四カ国を疾走する長旅がはじまった。
カメラマン小澤忠恭、ヘアメイク赤石直美、ライター田中晶子、アーティスト・マネージャー石之野順子(キティ・アーティスト)、ロケーション・マネージャー小川義文(ACP)、コーディネーター兼ドライバー兼通訳宮里昭一郎、カメラ助手上原勇。
石原真理子が運転する1600ccのオペルの助手席に小澤カメラマン。後部座席にロケーション・マネージャーの小川さん。残るスタッフは宮里さんの運転する後続のフォルクスワーゲンのバン。
運転免許をとったばかりの真理子嬢は運転がたのしくてしかたがない。助手席の小澤さんのカメラにニッコリ笑顔を向け前方無視がつづいて運転がおろそかになる。ある時車が路肩からすべりおちる寸前に後部座席から小川さんが身をのり出してハンドルを切り、大惨事をまぬがれたことがあり、後続車の我々は肝をつぶしたこともあった。
パリダカール・ラリーに横田紀一郎チームの一員としてなんども出場している歴戦の勇士のとっさの判断と運転技術がなければ、確実に死者が出る大事故になっていた。
電子書籍『きっかけ屋アナーキー伝』 北欧を一周してアイドル・カメラマンに転身 ~小澤忠恭さん~より。
コーラとハンバーガーで1000円、タバコ一箱1000円もする北欧。成田で思いっきりタバコを胸に吸い込んで禁煙を誓ったクルーだが旅の途中で挫折した者も多かった。
北欧はどこで食事しても出てくるのはじゃがいもと酢漬けのニシン。生野菜は皆無。お酒は高い。何時になっても外は明るいのでカメラマンは仕事を辞めない。
1年の半分は光が射さず残る半分は夜がないヨーロッパ最北端の地、北岬に駐在する新聞記者に質問した。
「こんなところに住んで何が楽しいの?」
「一年中なにも事件がおこらないので毎日たくさん本が読めるんだ。冬の朝暗闇の中、雪におおわれた真っ白な通りをこどもたちが懐中電灯を照らしながら学校に向かう風景はきれいだよ。とても平和に暮らせる。都会には住みたくないね」
一年中なにも事件がおこらない町に女優を筆頭に9人の日本人が乗り込んできたというので、ぼくらは取材を受け、翌朝ご当地の新聞の一面に写真入りで大きく報道された。
この続きはまた明日。
明日はジャズ・ピアニストの山下洋輔さんとご一緒したアメリカ各地のジャズ・クラブ道場破りの旅のお話です。
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