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【水鳥の歌と生活】2023年7月7日金曜〜7月15日土曜


 七月七日金曜

 仕事中、昨年まで交際していて別れたHからLINEで連絡があった。当時よく行っていたバーで働いていて後に独立開業したKが自殺したという。彼が独立開業したバーというのは電車で一時間ほどもかかる距離にありなかなか訪れることができなかったが、亡くなってからそれを悔いても仕方のないことだ。今更さも親友だったかのようにその死を悼むなどという厚かましいことはしたくない。惜しいと思うなら、生きているうちに会えば良かっただけのことだ。
 夜は酒を飲まずレトルトカレーを食べる。

 七月八日土曜

 自殺したKのことを考えているうちに、はじめはこれを文章にして残したいと考えたが、途中まで書いたところで死者を利用してまで文章を書こうという利己心にうんざりし、短歌の形で書くことにする。そして短歌を投稿するためのTwitterアカウントを「水鳥葛」の名で作成し、次々と投稿する。

  知人とも言っていいのか金銭が繋ぐ命が昨日絶たれた
  死に触れて興奮をしたままで生きてる人とまだ話したくない
  もう二度と会えないしこうなるまでに会いに行こうとしなかっただろ
  死に遇って何か書けると思うほど何で書かずにいられないのか
  しおらしく挽歌でも書くくらいなら冒涜をしてでも白状する
  生きていきたいか死のうか聞いてくる甘ったれなら生きただろうに
  人の死を矯めつ眇めつ何か言う挙げ句の果てに短歌だってよ
  いつまでも悲しいふりもできないし日々に戻るね死ぬやつが悪い
  まだ何か詩型に嵌めてみようとする言いたいことも無いというのに

 夜は家で晩酌をする。セブンイレブンのヤムウンセン、ロミサーモン、揚げささみのレモンソース和えを食べ、マルエフビール500ml缶を一本飲む。飲みながら、また思いつくままに短歌を書いていく。

  日常は嫌でも来るし少しだけ待ってもらって酒精と遊ぶ
  見回せば君と僕との歌ばかりどこにも居ない君と僕との
  嘘つきのふりをしてまで本当のことを言わずに台本を見る
  共感を得たい言葉は待たれずに独り言だけ誰かに届く
  速やかに誰にも思い入れの無い知らない場所をただ歩きたい
  寝苦しい夜を跨いで息苦しい着ぐるみのような人間のふり

 七月九日日曜

 寝起きに短歌と俳句を書く。

  目も開けず布団の中で雨音を確かめてあともう少し寝る
  夜毎に窓下で鳴いた猫どものことが気になる大雨の朝
  当たるなら稲妻又は宝くじ

 仕事のBGMはCornelius『夢中夢』にする。
 夜は家で晩酌をする。鮪刺身と牛蒡の煮物、卯の花、冷奴を食べて、七笑を三合飲む。飲みながらまた短歌と俳句を書く。

  雨音に紛れるだろうオルタナティブロックの音を少し大きく
  精神が要求をするほど今は酒を飲めない体になった
  靴下が濡れたまま歩く感触と苛立つ心をいつか忘れた
  米より成る酒であるなら腕白なやつは丼二杯飲むのか
  独酌には切身ではなくぶつ切りの鮪の方が酒場じみてくる
  冬には陶器夏にはガラス製品の酒器を用いて独酌をする
  定量で酔いが足らない日もあるしちょっと少ない定量にする
  本当は嫌いな人間ばかりだよ明日はどうか分からないけど
  甘辛く揚げた鰻の生首を噛み砕いては日本酒を飲む
  薬効を知れば確かに酒精とは合法的な麻薬だろうな
  蝉が鳴くようなFUZZがけSGのギターを直に耳に刺したい
  人情の離脱症状ようやくに抜けて去年を笑い飛ばせる
  創作は嘘でも何か嘘じゃ無い言葉を込めた嘘を言いたい
  熱帯夜苦し紛れの嘘ばかり

 七月十日月曜

 朝、Podcastで「髭男爵山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」を聴きながらジョギングをする。約三キロ。
 仕事のBGMはこの日もCornelius『夢中夢』にする。
 業後は家で晩酌をする。鰹刺身、鯛刺身の胡麻漬け、ほうれん草の胡麻和え、冷奴、仕事中いただいた玉蜀黍を食べて、七笑を二合飲む。この夏初めての玉蜀黍で楽しくなってしまいマレーシアのインスタント麺も食べてしまう。
 飲みながら短歌を書く。

  本当は裸で居たい心にも無いことばかり話すとしても
  太陽が眩しかろうが殺人も嫌になるほど熱い太陽
  精一杯働いた日も顎髭を抜いて過ごした日も酒が美味い
  酔ってなお憎しむような激情が無いから酒でリセットをする
  トムウェイツが酔いどれ詩人というのならさしずめ俺は酔いどれ歌人か
  川沿いの家では夜に水流の音が聞こえる人も居なくて
  情けないほどの暮らしもそのままに歌になるなら口の端に上る

 七月十一日火曜

 朝、radikoのタイムフリーで昨夜の「伊集院光 深夜の馬鹿力」「空気階段の踊り場」を聴く。
 仕事のBGMは佐野史郎 & SKYE『ALBUM』にする。
 仕事の合間に朝聴いていた「伊集院光 深夜の馬鹿力」で話していたNHKラジオ「伊集院光の百年ラヂオ 坂口安吾・43歳の肉声」を聴く。YouTubeでも聴くことができるインタビューだったが、伊集院光とアナウンサーの感想や解説があって興味深く聴く。
 夜は市街に飲みに出かける。一軒目の居酒屋ではゴーヤチャンプルーと焼きとん(あぶら、喉なんこつ)を食べて、白ホッピーを二セット飲む。飲みながら石川淳『新釈古事記』を読む。時々思いつくまま短歌も書く。

  気に入らないものに触れないようにしてやがて無口な中年になる
  他人とは歩幅が違うだけだからせめて路傍の花を楽しめ
  神々の話もつまり人間のように愚かで安心をする
  イヤホンから流れる曲にレール音がゴーストノートを被せる車中
  関わりの無い他人なら周辺に多いくらいがひとりになれる
  眼底を揺すぶるほどの音量でハードテクノを耳に流し込む

 二軒目のビアバーではドライトマト(バゲット付)を食べて、パインビール(十日市BEER)、WIPA、アンバーエールを飲む。

 七月十二日水曜

 朝、radikoのタイムフリーで昨夜の「爆笑問題カーボーイ」を聴く。
 仕事のBGMはCornelius『夢中夢』にする。仕事の合間にコインランドリーに行き洗濯をする。待ち時間にドラッグストアでBIGチョコを久しぶりに買って食べる。

  子供の頃食べたスーパーBIGチョコを仕事の暇にコーヒーと食む
  人間も車中にあれば風物で窓下に遊ぶ鶺鴒を見る
  今日明日は困らないとて働かぬ習慣がついついてしまった

 夜は酒を飲まずに乾麺の蕎麦を茹でて食べる。時々に短歌も書いた。

  現世は胡蝶の夢か夢中夢か劇中劇か別にどれでも
  疲労した脳は碌でもないことを考えるからとりあえず寝る
  嘘ばかり言っているけど本当があるかといえば答えられない
  逃げ水のようになんだかわからないものを汗して追いかけてきた
  雨水をタイヤが散らす音と蕎麦を啜る音とは似ているんだな
  人生の浪費だなどというけれど飲まない夜も浪費している
  口中で泡がはじけるそれだけで快楽物質が少し出ている
  酒も飲まず音楽も聴かず動画も見ず蛙や虫の声を聞いてる

 七月十三日木曜

 休日。起きてradikoのタイムフリーで昨夜の「山里亮太の不毛な議論」「ほら!ここがオズワルドさんち!」を聴く。

  雨喜び人情らしき嘘ばかり
  いつもより遅く起き出し甘えてくる犬を抱いて休日が過ぎる

 家を出て近所の市民プールに行き泳ぐ。まだ夏休み前なので貸切状態だ。

  夏休み前のプールは人もなく我が別荘と名付けて泳ぐ
  正午まで泳いで午後は何をしよう居眠りをする授業も無いし

 昼食はラーメン屋で冷やし中華を食べる。
 夜は家で晩酌をする。豚肉とズッキーニ、パプリカを鉄板で焼いたものとヤムウンセンを食べ、シンハービール330ml缶二本とコロナビール330ml瓶一本を飲む。

  ちょっとだけ何かをしてはその倍の時間休んで日暮れ始める
  瓶ビール入道雲に盛り上げる
  休日に同じアルバムを聴き続けるいつかこの日を思い出すため
  今何をしてるんだろう疫病が流行る前にはいい奴だった

 飲みながらDOMMUNEでTESTSETのライブを見る。

  室内で肉を焼き酒を飲みながらライブイベントを配信で観る
  木々と水と神や仏に囲まれた土地じゃ朝まで踊り明かせない
  パクチーの効いたサラダも買ってきた熱い夜にはシンハーが合う
  デザインをするように音を配置した脳が気持ちいい電子音楽

 七月十四日金曜

 朝、radikoのタイムフリーで昨夜の「おぎやはぎのメガネびいき」を聴く。
 仕事のBGMは砂原良徳『LOVEBEAT』にする。仕事の合間にダースレイターとプチ鹿島の時事配信「ヒルカラナンデス」を見る。
 夜は酒を飲まずにファミリーマートで買ったSPAMにぎり、鶏つくね串を食べて、KAGOMEの野菜ジュースを飲む。

  朝顔の花弁を水の中で潰す綺麗な色がただ見たいから

 七月十五日土曜

 朝、radikoのタイムフリーで昨夜の「バナナマンのバナナムーンGold」を聴く。
 仕事のBGMはCornelius『THE FIRST QUESTION AWARD』にする。
 夜は家で晩酌をする。鰹刺身、鯛刺身の胡麻漬け、冷奴を食べて七笑を二合飲む。飲みながらピエール瀧のYouTubeチャンネル「YOUR RECOMMENDATIONS」の最新回を見たり、『檀一雄全詩集』を読むなどする。

  夏になればガラス食器に炭酸や酒を注いで光を飲み干す
  家でなら二合で酔いを自覚する筈が外では飲めるだけ飲む

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