共通テストで要される法律の理解度とは
昨年も作成したが、今年も共通テスト風の問題を作成した。
科目は「政治・経済」で、分野は政治の大問1つ分(全6問)。
共通テストの問題にしては、やや求められる理解が総合的に見れば高度だと思われるが、昨年・本年と続いて見る限り、数年後には全て必要となってくるレベルの理解だと考えられる。
表題の論考について、本記事では簡単な説明と簡易的な結論ですませることを容赦していただきたいところ、本題に入る前に、自作の以下の問題をまずは解いていただきたい。
なお、模範解答や解説などは無いか、後日別途作成し、追記の形で記す。
令和4年度共通テストについて
今回作成した問題について説明する前に、昨年度(令和3年度)と今年度の問題の概況についてさらっておく。
昨年は、共通テストへ変更初年度というところで、それまでのセンター試験とは毛色が異なる試験であった。2回目の今年は、前年度の特徴を引き継ぎつつ、前年には無かった形式の問を設定し、問題形式の幅を広げたものとなった。これで、共通テストはこういうものだ、という特徴はある程度固まったのではないかと思う。
共通テストは、その変更理由の第一が、知識一辺倒ではなく、主体的に考え、問題解決をする能力を測ることを目的としている。そのため、傍線部に関連する説明が4つあってただ選択するというのみの設問はほとんどなく、あっても「適当なもの」ではなく「誤っているもの」だったりする。この形式が、そうした目的の達成に資するかは不明だが、とにかくただ知っているだけでは解けないぞ、ということを言いたいようだ。
共通テストは、大学入試の最もスタンダードな関門のひとつであり、日本の大学入学者の中で最も多くの人が通る道だと思われる。したがって当然、大学入学以降の学習で成果を上げられる見込みがないものは、この試験でドロップアウトしてもらうことになる。換言すれば、大学での学習をしたければ、このくらいクリアしてもらわないと困るということだ。そうした理由もある共通テストの導入でもあるし、そのため、私の受けたセンター時代にはあまり聞かなかった、試験では出しにくい内容について、思考力を試すために必要だということで多く用いられてる節がある。
問題作成の意図
問題は、ほとんど法学に関するものである。
そもそも、科目の名称としては「政治・経済」ではあり、科目中で政治分野・経済分野に分かれているが、私の体感で言えば、政治分野の8割は法学あるいは行政学に関するものである。(政治学分野が4割である。もちろん、法学や行政学、政治学は完全に分別することは不可能であり、また、政治学や行政学の前提に法学が立っているという面もある。それゆえのこの割合である。)詳細な分野で言えば、体感では以下のような割合である。
法制史・政治史(~近代まで):5%
憲法(明治憲法、国民主権、平和主義、人権、統治機構、地方自治):50%
日本現代政治史:20%
国連:5%
現代国際政治:20%
科目の構成割合が以上のようであるが、共通テストは、教科書で習う事項の他に、資料読解なども含まれるので、出題割合は一致しない(特に、法制史・政治史や国連などは、必ず1問出題されるかどうかという程度であったり、憲法が半数を占めてもいないことは容易にわかる)。
さらに、共通テストになって新たに出題が増えたものが、特に憲法分野や日本の現代政治史分野において、前者では憲法以外の法体系やその用語の知識、後者ではより実践的な用語(今年出題されたものとしては「規制緩和」などがそうである)の意味の理解を問う問題である。こうした問題に対応するためには、教科書・参考書、あるいは過去問や模試の出題履歴から覚えるというのは難しく、どこかで別に、ごく簡単な程度でも体系的に学ぶことが必要だと思われる。
(とはいえ、この部分は実はそこまで正確に理解できていなくても、一般的な教科書に載ってる知識が理解できていれば、正解ではないことを見抜けることになっているが、現実、それが完璧にできるとは言い難い。問題意識をもつ理由のひとつである)
以上を踏まえて、法学に関連する領域で、できるだけ知っておきたい基礎的な知識ながら、学校の授業や参考書などから学べる機会が少ない事項を多く聞くような問題を作成した。以下で、少しだけ具体的な作成意図を説明し、本稿を閉じたいと思う。
➀法律の条文や裁判所、行政機関等の法律文を読み込む
この問題は、昨年に引き続いているが、今年は新たに法律の条文をもとに、一部を抜粋し簡単に書き直した「メモ」が増えた点で、問題を増やした。昨年は最高裁判決の条文がそのまま引用され、今年は法律文が、多少の書き換えのみで、おおよそそのまま出題され、読むよう指示された。
出題された法律文を全て読む必要はなく、どちらかといえば情報処理の速さにかかっているものと思われるが、そもそも文章の形式に慣れていなければ上手くいかないこともあるだろうことで、最高裁判決の引用、法律の条文から作成された「メモ」をどちらも出題した。
引用した最高裁判決は、いわゆる北方ジャーナル事件最高裁判決であり、憲法の教科書では、「宴のあと」事件地裁判決、『石に泳ぐ魚』事件最高裁判決などに続いて、表現の自由の部分で必ず言及される判例である。高校の「政治・経済」の教科書で言及されているのは見たことはないが、この科目では、表現の自由ではなく、プライバシーのテーマで前記2判決が言及されるため、名誉毀損と表現の自由の関係についての事件である当該事件は範囲外ということだろう。しかし、後述のような民法と刑法の違いが表れているものとして、問われることもあるだろう。
②憲法以外の法体系への理解
今回問いたかった部分はおおよそこれである。この領域に関しては、問題中で引用した永井・森編『法学入門』(中央経済社)などのような、手ごろで読みやすい、法学部1年生向けの教科書を一読してもらえば済む内容である。
しかし、去年に引き続き聞かれた分野で、今回は選択肢で民法と刑法の2択の問題があったというのもあり、計3題出題した。この領域で聞かれる可能性があるのは以下の点である。詳しくは、前述のような教科書を読むことを勧めたい。
法体系全般
・法律の役割
・法律の強制力の源泉
・公法私法二元論
・「法律」概念
・立法(七法)の役割、存在意義
憲法
・国家の役割や目的、あるべき国家像を宣言する
・人権を保障する(=国家による抑圧から守る)
・権力分立による国家の暴走の忌避
・人権論(自由権と社会権の違いなど)
私法
・私的自治の原則
・私法の目的
・民法、商法、会社法の役割
・公法や刑事法と比較した私法の特徴
公法
・公法の種類(憲法、行政法など)
・公法の役割(行政権との関係)
・行政手続法などの個別の法律の概要
刑事法
・刑法、刑罰の存在理由
・運用上の原則
その他
・社会法(環境法、労働法、経済法など)の個別の役割