第一章 1節 世界

 アルが消えてから五年間は、それまでの生活となんらかわることはなかった。アルの家は鍵が空いたままだったので、勝手に私が管理していた。
 アルがいなくなっても同じように家にいき、本を読み続けた。なにか特別なことがあったと言えば、12歳の春頃だったか、この家を出入りする子供が一人増えたことだろう。 
 彼は門番の子供で、幼いときから親から剣をならって過ごす。私と真反対の境遇の男だった。唯一の共通点は外への憧れだけ。けれど、それは私たちにとって十分すぎた。私が他の子供との関わりがなかったのでわからないけれど、もしかしたら村の子供がみな同じように外に憧れがあったのだろうが。
 それでも、外に行くための努力をしているのは世界で私たちだけのような。
 私はあの日からの五年間、さらにこの男は私とであってからの三年間、外の世界の勉強を、護身術を学び続けた。
 そしてわたしの成人の儀、15歳の誕生日。そう、この日が私たちにとっての旅立ちの日になる。
この日が来るのをいつかいつかと待ちわびてきたのだ。その日までの日々は、本当に長く本当に短かった。だって、本当の意味でわたしの世界が広がる日なのだから。もちろん、旅に出ることは二年前から親とも相談してきたし、親が課した算学をはじめとする学術、そして剣術をはじめとする護身術も完璧にこなした。もう、私を止めるものなどないのだ。

この今にも倒れそうなほど古びた門をくぐる。
穴があくほどに見つめた門とその向こうとを、今この手でつかんだのだ。そして、

私たちは、野を駆けた。跳ねた。転がった。
数秒前とは、匂いも、空の明るさも、空気も、感触も、何もかもが違うのだと。
そして、この1歩1歩を踏みしめる
「ねえギアル、君はどうして外に行きたかったの?」
そう彼に一言聞いて、私は私の願いの1つが叶った事を実感するのだ。

私の旅の目的は、もちろん居なくなってしまったアベルを探すことである。
そうは言っても手掛かりなど無いようなもので、何処へ行けば会えるのかなど検討もつかない。そもそも、生死すらも不明なのだ。無謀な旅になることは、元から承知の上である。
まずは、日が暮れるまでに隣の村まで行かなければならない。野宿の準備が無いわけではないが、野宿などしないで良いのであれば、それに越したことはない。
それこそ、私たちが成人するまで待たなければいけなかったのは、宿を借りることが出来るか否かということが理由のひとつであったのは言うまでもない。
そう、これだけ待ったのだ。待ち望んだ世界が広がり、憧れた世界に足を踏み入れ、自らの力で生き抜いていく。

ああ、私達の新しい生活が始まるのだ。何があるかなんて分からないけど、手を伸ばして手を伸ばして、やっと少し遠くのところへ届いたのだ。







 

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