ブラックオニキス 序章
目を背けたくて背けたくて背けたくて。
どうしようもなく、あなたが怖かった。
あの日、いつかを誓った貴方と別れた日。
こうやって、死ぬほど死ぬ気で生きているのに。
このひとつの失敗はあまりに大きすぎた。
暗い冷たく現実のものとは到底思えないこの檻の中は、皮肉にも太陽が当たれば、透明できれいな水が薄汚い自分を写す。
いかにも、あの方は私を殺す気はないと。
ああ、弱味を握り、心を握り、命を握る。
きっと代わりを見つけるのは、容易く難しいのだろう。
そう、全ての始まりのあの日。
私にとって、アベルは世界で一番物知りな男だった。
アルはお母さんも、よく街へ行くお父さんですら知らないことを、今よりもっと幼かった私にさえわかるように噛み砕いて教えてくれた。
村の果ての彼の家には、薬を求めて数日に一度くらいの頻度で村人がやってくる。この近くでは見ない黒髪で、村出身でないことは周知の事実だったのに村の人に信頼されていたし、皆に好かれていた。例に漏れず私も物心つく頃にはすでに、彼にも、彼が見せてくれるその世界にも夢中だった。
楽しい、楽しい、もっと聞きたい。貴方に会うことが楽しみになって、その思いが憧れになり恋慕へと変わる。そこに至るまでには、一瞬だった。
私が、アルとはじめてであったのは、お父さんと一緒に薬をもらいにいった4歳のときだ。そのときの読んだ絵本が大好きでその日から毎日欠かすことなく私は本を読みに行った。
また、アルは空いた時間にたくさんの話や、難しい漢字の読み書きをまめにおしえてくれるようになった。少なくともこの六年という年月は、それが恋慕であるかに関わらず特別な思いに至るのに十分すぎた。
私にとって新しいことを知ることは、幸せでしかなかった。村の外にでてはいけないと言われ続けていたからこそ興味が底無しに沸いてきたし、それを学ぼうとすることはもはや必然的でしかなかった。
そして、もはや全てを知っているのではないのかとおもえるほどのアルは憧れだったし、幼少の私にも紳士的に教えてくれる姿も、村人に薬を売っている姿もかっこよくて仕方がなかった。アルは私が彼の家に行くまで何かの研究をしていたので、それを手伝える事、正式に弟子入りさせてもらえることが幼いながら夢であった。
あの日までは。
10歳を迎えたあの日、私はいつもと同じようにアルの家へむかった。
「誕生日おめでとう」
その一言が聞きたかった。
お父さんが街で買ってきてくれるプレゼントよりも、お母さんが焼いてくれるケーキでさえ霞むように思ってしまうくらい、私にとってその一言は特別で幸せで愛おしいのだ。私にとって、人生で一番の憧れで会った彼との瞬間というのは。
それだというのに、その日彼はそこにはいなかった。それどころか、次の日もその次も。
そう、皮肉にも私の誕生日のその日にアルは姿を消したのだった。
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作品の提携
pika虞 (@Pikagu_)さん
※転載禁止
あくまで、自分の創作話(二次創作)故、本作品のストーリーとは一切の関係はありません。
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