現代語訳『さいき』(その1)
豊前国《ぶぜんのくに》に佐伯《さいき》という男がいた。一族の者に所領を奪われてしまったため、京都に上がって訴訟を行ったが、埒《らち》が明かないままむなしく年月を重ねていた。
「一向に解決しそうにないので、清水寺に七日間籠《こ》もり、観音が夢枕に立つのを待とう」
思い立った佐伯は竹松《たけまつ》という童《わらわ》を一人連れて清水寺を訪れ、熱心に祈念したものの、霊験を得ることができなかった。
(続く)
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今回から『さいき』という古典の現代語訳をお届けします。
室町時代に成立したとされる「御伽草子《おとぎぞうし》」のひとつで、題名の『さいき』は主人公の「佐伯《さいき》」から取ったものになります。(タイトルを『さかき』とする底本もあるそうです)
物語は、領地トラブル解決のために豊前国佐伯荘(大分県佐伯市)から京に上がった主人公が、困った末に清水寺を訪れたシーンからスタートします。本尊である「十一面千手観世音菩薩」のお告げを聞くのが目的でしたが、どうやらそれはかなわなかったようです。
それでは次回にまたお会いしましょう。
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