現代語訳「玉水物語」(その三)
こうして月日が過ぎ、八月になった。
秋の訪れを告げる初鴈《はつかり》の鳴き声が身に染みる心地がして、玉水は寂しさが込み上げるのを感じていた。
養母からはいつも便りが届き、実の親よりも愛されていた。普段着と一緒に美しく感じのいい衣装が送られてきたが、手紙には恨み言がしたためられていた。
「どうして、たまには我が家に帰って、わたしたちを慰めてくれないのですか。あなたのことが心配で、いつも夜に寝覚《ねざ》めてしまいます。わたしたちは生みの親ではないので、あなたは疎遠なままでいても平気なのでしょう」
玉水は手紙の返事を書いて送った。
「わたしもお母さまやお父さまのことが心配で、お二人のことを思わない朝はありません。本当の親ではないとおっしゃるのは、ひどくつらいとことです」
養母は受け取った手紙を読んで、「あの子の言い分は確かにもっともだ」と涙を流した。
(続く)
【 原文 】 http://www.j-texts.com/chusei/tama.html
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