現代語訳『伽婢子』 夢のちぎり(4)
それから左近《さこん》は毎夜、夢の中で女のもとに通い、契りを交わさない夜はなかった。
ある夜の夢で、女は琴《こと》で「想夫恋《そうふれん》」を弾いた。その爪音《つまおと》は実に見事で、雲の上まで演奏が届くのではないかと思えるほど愛情が込められていた。
別の夢でまたあの家に行くと、女は白い小袖《こそで》を縫っていたが、左近が灯火《ともしび》を掲げようとしたときに、誤って灯花《ちょうじがしら》(灯心のもえさしにできた塊)を小袖の上に落として跡を付けてしまった。
また別の夢では、女が銀《しろがね》の香箱《こうばこ》を左近に贈り、左近は水晶の玉を与えたが、夢が覚めると枕元に銀《しろがね》の香箱があり、自分の水晶の玉はなくなっていた。
左近は大いに怪しんで歌を詠んだ。
君にいま逢《あふ》夜《よ》あまたの語らひを夢と知りつつさめずあらなむ
(あなたとこうして何度も逢瀬《おうせ》を重ね、語らったことは夢の中の出来事だと知りつつも、覚めないで欲しいと願っています)
(続く)
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主人公は夢の中で何度も女のもとを訪れますが、あるとき夢の中で交換した物が、現実でも置き換わっていました。何が起きているのか、いよいよ分からなくなってきました。
続きは次回にお届けします。それではまた。
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