現代語訳「玉水物語」(その七)

 ある日、物の怪《け》に取り憑《つ》かれたのだろうか、玉水の養母が病に倒れた。多くの祈祷《きとう》を行ったものの、月日が重なるにつれて容体が悪くなっていくように見えたため、養母は本心を隠して夫と息子たちに頼んだ。
「御所にいるあの子に、もう一度会わせてくれるようにお願いしてもらえませんか。いつも恋しく慕っていたあの子の顔を見れば、きっとこの病も治ることでしょう」
 養母の様子を伝え聞いた玉水はひどく悲しみ、しばらくの暇《いとま》を願い出た。
 里に戻った玉水を見て、養母は並々ならず喜んだ。
「どのような前世の契りか、毎日、あなたのことが心配でならず、いつ宮仕えを終えてこの家に帰ってくるのかと不安に思っていました。しかし、こうして顔を見せてくれたおかげで安心し、ありがたくも嬉《うれ》しく思っています。このように、千に一つも助かることのなさそうな病を思い掛けず患い、身の置き所がないのを悲しく感じていたのです」
 そう言って衰えた手を伸ばし、玉水の頭を撫《な》でながら涙を流すので、玉水は何も言えず、泣くより他になかった。
 その後、玉水は付ききりで介抱したので、他の息子たちは少し余裕ができ、休息を取ることができるようになった。
(上巻了、下巻に続く)

【 原文 】 http://www.j-texts.com/chusei/tama.html


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