現代語訳『さいき』(その15)
(続く)
★
女からの手紙の内容(その1)です。
迎えどころか便りすらないことに疲れ果てた女の心情が、枯れた植物として表現されています。
少し補足すると、「葛《くず》の葉」は風で裏返ることから「裏」や「恨み」に掛かる枕詞です。ここでは「枯れ果てた自分」とは対照的な「大きな葉の葛《くず》」を別の女と見立てながら「恨み」に掛けていますので、あえてそのまま訳しました。
ご覧の通り原文は基本的に七五調です。長歌のような趣・リズムで、使用されている言葉も古歌・故事を意識したものになっています。
以前、「その7」で作者の古歌の知識がやや足りない可能性を指摘しましたが、ひょっとしたら「物陰に」の歌を作った人と手紙を書いた人は別人かもしれません。(「物陰に」の歌は二人が共に知っている流行歌扱い)
もしくは別の可能性で、――「その7」で女が想定していたのは『万葉集』の別離の歌(やんわりとしたお断り)で、後から別人が「女は今夜中に来て欲しいと匂わせて待っていたので抵抗しなかった」という真逆の説明を挿入してしまったのかもしれません。(個人的にはこちらの説を推します)
それでは次回にまたお会いしましょう。
【 主な参考文献 】
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