『君のクイズ』―君の人生はクイズになるか
※読了後の感想なので少なからずネタバレが含まれます。
率直な感想としては「どんでん返しのあるミステリー」として読み始めるとちょっと肩透かしを食らうかもしれない。
内容は至って単純で、たった一つの謎を主人公が自室で解いていくのが物語のおおよその場面になっている。シーンとしては結構地味で、段々と真相が直線的に盛り上がっていくので、ミステリーとしてはちょっと物足りなさもある。
しかし、これがクイズプレイヤーならではの視点で進むのが面白い。私はQuizKnockやカプリティオチャンネルといったクイズ系YouTuberを普段から観ているので、クイズプレイヤーの心理や、クイズ大会に求められる知識とは異なるスキルについてはそれなりに知っていたが、全くこの手のことを知らない人からすれば、かなり新鮮な体験だろうと思う。
そして、このクイズプレイヤーの思考こそが本作オリジナルのミステリー要素となる。クイズプレイヤーである主人公は、クイズプレイヤーにしか出来ない思考回路から解を導き出していくのだ―しかし…。
”このミス”にも選ばれ、本屋大賞にも選出され、各所で「面白い!」と高評価された本作をミステリーとしてどう捉えるかは人それぞれと思う。私のようにクイズプレイヤーの思考を知っている人にとってはクイズプレイヤーのあるあるよりも謎の究明に意識がいってしまうため、そのうえであの結末をどう受け止めるか…。そういう意味ではかなり挑戦的な作品で、クイズというテーマだけで成立させているのはスゴい。
また、この作品のテーマには「クイズは自分の人生の鏡」というような面も含まれている。
実際のクイズプレイヤーが皆このように感じるのかはわからないが、それは単にクイズが好きだからそう感じるというだけではなく、クイズプレイヤーではない人にとっての日常にも共通する部分がある。就活時代に見た一瞬の景色や、恋人とプレイしたゲーム。何かをきっかけにしてそれらがフラッシュバックしたり、思わぬ知識へと結びついたりする経験は誰にでもある。クイズは異世界の体験ではなく、全てに共通している人生体験でもあるという話は面白い。
あとは昨今のSNSにおける偶像化の風潮を取り上げていたのも面白い。推しに自分の理想の文脈を勝手につけたりする行為はこの手の界隈に身を投じたことのある人なら絶対にピンとくる。そして、この偶像化こそが物語のキモとして回収されていくのはかなり鮮やかだった。
暗記とは本当にただの暗記であり、知識をつけるのとは少し違う。クイズがスポーツのような競技たり得ているのは、そこに必ずプレイヤーとしての人間の意思が介在しているからであり、それぞれの経験値から身についた知識が何よりものを言うからだ。単なる暗記勝負と思っていた人にはより良い発見になったと思うし、今まで何となく世の中を眺めていただけの人生が、ちょっとだけ世の中の見方が変わるような、そんな作品だった。
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