Weather Report - Mysterious Traveller (1974)
1stから2ndのアグレッシブなジャズロックとアンビエントなバラードから3rdでファンクビートを取り入れたウェザーですが本作でシンセサイザーの使い方をガラッと変えサウンドも明るく軽やかになったことでようやく後のウェザーリポートといえばという音の基礎が作り上げられたように思います。これはジョーザヴィヌルのキーボードへの探究心と世界各地のリズムや若い頃演奏していたブルース色の強い音楽の回帰思考とウェインのブラジル思考がガッチリ組み合ったことによるもので次作Tale Spinnin’で完成された次次作のBlack Marketでのジャコの加入することでウェザーリポートの音になります。ただ僕は過渡期の試行錯誤している作品は意外な一面や変わった曲が入っていることが多くて好きなので本作が一番好きだったりします。
メンバー(ウェザーリポート)
ジョーザヴィヌル:ピアノ、シンセサイザー、エレピ、メロディカ、ギター、クレイドラム、タコピアノ、カリンバ、マラカス、オルガン、タンブーラ、パーカッション、ボーカル
ウェインショーター:ソプラノ、テナーサックス、ピアノ(4)、貝殻(4)
ドンウンロマン:パーカッション、笛(7)
イシュマエルウィルバーン:ドラム
アルフォンソジョンソン、ミロスラフヴィトウィス:ベース
ゲスト
スキップハッデン:ドラム(4)
アイザコフ:フィンガーシンバル、タブラ(7)
Nubian Sundance
擬似ライブ風のイントロで気分を上がるファンクナンバー。曲の中で何個ものフレーズが飛び出す構成がめちゃくちゃ面白いです。グルーヴィなリズムに華やかなキーボード、いいところでいいフレーズを吹くサックスに中期ウェザーでよく聴くスキャットとウェザーといえばなサウンドです。コーラス隊にはフリーソウルで有名な女性コーラスグループのハニーコーンのリードボーカルのエドナライトが参加しています。
American Tango
唯一ヴィトウィスが加わった曲で作曲はヴィトウィスですがファンキーなビートを持ったシンプルなようでしなやかな即興が繰り広げられておりジョーの音になっています。これではヴィトウィスが辞めたくなるのも分かります。でもヴィトウィスもファンクは演奏できないのであって嫌いじゃないと発言してるので真相は不明です。
Cucumber Slumbaer
キュウリの子守唄という韻を踏んだ面白いタイトルの曲でヌルヌルしたベースラインがユーモラスかつファンキーでかっこいいです。ワウを噛ませたキーボードも相まってヘッドハンターズやベイエリアのファンクバンドっぽいサウンドです。
Mysterious Traveller
タイトル通りミステリアスなメロディを持ったショーターらしい曲。ただしファンクビートを用いているので今までとは少し違った雰囲気です。
Blackthorn Rose
こちらもウェインらしいバラードナンバーでジョーとウェインのデュオによるこのアルバム唯一のビートのない曲です。
Scarlet Woman
ウェインのミステリアスなメロディとジョーの華やかなキーボードが融合したバラードナンバー。シンセとサックスによるホーンセクションを模したフレーズが印象的です。
Jungle Book
ウェインとアルフォソが抜けてジョーのキーボードと複数人による各種打楽器、ドンウンロマンによる笛という変わった編成での演奏です。牧歌的でありながら神秘的それでいて躍動感もある不思議な演奏が個人的にはこのアルバムで一番気に入っています。
コネクション:ジョーの経歴詐称
マイルスデイヴィスのIn A Silent Wayはジョーが書いた曲で度々彼が牧童として羊の世話をしていた少年時代がモチーフと言われますがジョーの少年時代は全く違う生活をしているので間違いです。ではなぜそのような間違いが広まったのか。それはジョー本人がインタビューでそう言ったから。ジョーの少年時代は戦争の影響で苦しい部分もありブラックマーケットや8:30収録のオルファン(孤児)にはそういった経験が込められています。重い話を嫌がったのか或いは曲にウケの良いエピソードを加えて話題を高めようと思ったのかは分かりませんが本人が言ったなら信じてしまうのも仕方ありません。