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創造とは破壊行為、そして…。望月菊磨展 4月9日まで
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最近めっきり暖かくなってきましたね。
画廊の花壇にも色とりどりのお花がさきみだれています。皆様いかがお過ごしでしょうか。
みぞえ画廊福岡店では、望月菊磨展を開催中です。本展では、70年代の代表作から最新作までを同時に展示することで、未来への展望を臨む展示となっております。
70〜80年代の「破壊シリーズ」を経て
真っ白な画用紙を用意して、絵を描こうとしたとき、妙な緊張を覚えた記憶はありませんか?何か取り返しのつかないことになりそうな気持になってしまう・・・きっと、創作とは、破壊と表裏一体なのでしょう。キャンバスを汚したり、木を削ったり、金属を叩いたり・・・そんな破壊行為の末に作品が出来上がります。
望月作品の中でもとりわけユニークな「破壊シリーズ」。それは創作を破壊行為と捉えた一連の作品のことです。素材が破壊されるその瞬間を捉えた作品は、創作の原点を表しているかのようです。
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木・ステンレススティール・鉄 1973年作
東京・リュブリアーナ・デュッセルドルフ 巡回
新館に整然と並ぶ木の板はどれも不自然に曲がっており、それぞれに何かとてつもない圧力がかかって変形したことが窺えます。中央に据えられた一本は、その圧力がついに決壊し二つに分断されています。
磨き上げられたステンレスと桂の木の対比により、静と動のコントラストが劇的に演出されています。この作品は発表時高く評価され、ヨーロッパにも巡回しました。新館の樹齢300年の柱と不思議な調和を見せているのは本展ならでは。
あえて人工的な素材を選んで始まった作家人生。
望月氏は、彫刻作品には主流であった、重々しい素材を使ったどっしりとした表現には、反発する気持ちもあり、あえて人工的な輝きを放つ真鍮を好んで使ってきました。実は、真鍮って、銅と亜鉛の合金のことで、単体で自然界に存在している金属ではないのだそうです。
キラキラと光って薄くて軽い真鍮という素材で作られた作品は、会場を黄金色で満たし、従来の彫刻の概念を覆してきました。
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真鍮・ステンレス 1982年作
これらの作品を観て、皆様はどのような感想を持たれるでしょうか?
叩いて作った?型に流し込んだ?まさか、引っ張って伸ばした?
そう、これらの作品は、火で温めた真鍮を引っ張って伸ばしたその瞬間の形をそのまま留めている作品なのです。
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真鍮・アルミニウム 1982年作
この作品は、フラットな真鍮の板が左上に貼り付けてあります。実は、この板と、その横の伸びた真鍮は、元はまったく同じ大きさの板なのです。
この板を温めて、対角線上に引っ張って伸ばすと、ダイナミックな動きを持った形へと変わります。その瞬間を留めるために、熱々の真鍮に「今だっ!」と水をかけて一気に放熱させます。作品が大きくなるほどその制作は困難になり、複数人で支えたり温めたり機械で引っ張ったりして、、、そのほとんどが思う通りの形にならず、失敗するそうです!
数少ない成功した作品は、すべての摂理から逃れるように超然と会場に在ります。
変化を受け入れて、思うままに。
70〜80年代の作品を振り返ってみると、そこには常に張り詰めた雰囲気が漂います。しかし、自身が歳を重ね、精神的にも体力的にも変化が訪れると、もっと思うままに自由に制作をしても良いのではないか?と考え始め、手が求めるままに素材を組み合わせる制作から、軽やかな造形が表れてきます。これらのシリーズは「思うままに」と名付けられています。
当初は真鍮のみ組み合わせていましたが、本展では漂流木を組み合わせたものもあり、柔らかい印象です。自然物の取り入れ方にも大きな変化があったことが分かります。
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真鍮・漂着木 2021年作
植物が生けられるようになっています。
集大成となる最新作の大作と、対になるもう一つの新作。
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真鍮・ステンレス 2023年作
本館では、東京店個展では庭に展示されていた《考跡・未来》が静かに佇んでいます。これまでの集大成のような最新作です。
ステンレスの円錐形は透明と見紛うほどに磨き上げられています。周りの景色が映り込みながらもその形に伴って頂点へと導かれ、その切先は永遠に続くように研ぎ澄まされています。
その後ろに影のようにある逆円錐形は、反対に鈍い色合いをしています。よく見ると、真鍮の端切れが、籠のように継ぎ合わされていることがわかります。さらに近寄ってみると、、小さな作品がいくつも入ってる??サインが刻まれているものもある!👀そのようにして、籠の中にある別の存在に気付くのではないでしょうか。望月氏曰く、ここには過去に試作した作品や、発表しなかった作品が封じ込められています。
彫刻を作るには、時間と、労力と、お金がかかるうえ、そのほとんどは失敗の山となります。しかし、それらがなければ、新しい芸術は生まれることができません。「考跡」と名付けられた作品の中で、一つ一つに、これまでの軌跡が宿っているかのようです。
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70x50x30cm 真鍮 2023年作
その横には、BRASS RIPPINGと思うままにを組み合わせたような作品が。過去の作品と比べてみると、あたかも使い込まれたような風合いがあります。
そこには、これまで培ってきた技術と感性を自負しながらも研鑽を惜しまない姿勢と、芸術家を志してからこれまで共にあった真鍮という素材との絆が感じられます。
4月7,8,9日は在廊日となっております。
ぜひ足をお運びください。
スタッフ。