素材が持つ時間という重み。宮﨑甲展
福岡出身の彫刻家、宮﨑甲氏の個展を開催中です。
弊画廊では、2018年の個展以来2回目の開催となります。
当時の展覧会の様子を伝えるブログ記事を懐かしく見ていると、新聞記者の方に今後の展望を尋ねられて、「ブロンズの他、木、石など、様々な素材を扱ってきた今、あらゆる縛りを解き放って、自由な制作の領域に踏み出したい」と意気込みを語るご様子が。
言われてみれば、本展会場を見渡すと、抽象的な作品が多く見受けられます。蝋型鋳造という技法を用いた彫刻作品が約50点並びました。
蝋型鋳造って・・・何?
耳慣れない技法です。ブロンズ彫刻、とりわけ蝋型鋳造に日本で取り組むアーティストはあまり多くはありません。
蝋型鋳造法とは、原型を主に蝋で作り、それを石膏で固めてから高温で熱して蝋を蒸発させて作った鋳型に、ブロンズを流し込み、割り出して完成する鋳造法です。すなわちすべて一点ものとなります。
蝋型鋳造との出会い
蝋型鋳造との出会いは、宮﨑氏が佐賀大学に在籍時にまで遡ります。当時教わっていた教授が、日本では知られていない新たな技術としてイタリアから持ち帰り、一冊の本にして指南していました。これが宮﨑氏が蝋型鋳造法を知るきっかけとなりました。佐賀大学美術科を卒業後は、イタリア留学、筑波大学大学院などを経て、東京を主に活動を続けました。そのころには蠟型鋳造の知識のみが自身の武器となると感じるようになり、より一層、蝋型鋳造法による彫刻作品の制作に励んだといいます。
原型から鋳造まで全て自身の手で
一般的に、ブロンズ彫刻は、通常、彫刻家が原型を作り、鋳造の職人が鋳造しています。しかし、宮﨑氏は、原型から鋳造まで全て作家本人が行うことによって可能となる、新たな彫刻表現に取り組んできました。
材料と技術に導かれて
蠟型鋳造という技法においては、燃えてなくなるものであればほとんどのものが原型として使用できます。例えば足元に落ちている枯れ枝さえも、手元でひねっていた蝋の原型に刺して造形の一部とすることができます。それはすなわち、材料と技術が日常を取り込んで導いた形とみることもできます。
近年では、こうした材料と技術そのものに自身の個性を見出し、面白みを感じているのだそうです。
100年後も残っているとしたら
一方で宮﨑氏は、仏像の研究にも長く携わっています。各地の仏像を調べているうちに、作品が何百年と長く残ることを実感し、消えて無くなるものではない素材としての重みについて深く考えるようになったそうです。
「100年後も残っているものを作っているとしたら、変な物は作れない」という、素材に対する畏怖の念は、作品に心地よい緊張感を与えています。
大きな時間と小さな日常
この作品の、お花の軸の下の方・・・くずのようなかけらがそのまま鋳造されています。
「こんな小さいかけらがくっついていたら、前は意図しない部分として取り除いていたのに、今では可愛らしく感じちゃって残してる」と語る宮﨑氏。
芸術、彫刻の分野だけでなく、自然界には壮大な歴史があります。その時間の流れの中に身を置き、大きな時間を感じつつ、この世に受けた生を日々紡ぐ。その姿勢は、テーマの選定から仕上げに至るまで見受けられるように思います。
細部まで鑑賞できるのはあと二日。お気軽にお出かけください。
宮﨑甲 彫刻展 蝋型鋳造の世界
2023年10月14日(土)~10月29日(日)
会期中無休 10:00-18:00
会場 みぞえ画廊 福岡店
住所 福岡市中央区地行浜1-2-5
電話番号 092-738-5655
〇作家在廊日
28日(土)、29日(日)