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【読書メモ】『文体練習』―さまざまなものの見方を教えてくれる本

こんにちは。
今回は、先月読んで「すごい!」と思った本について書きます。

『文体練習』(朝日出版社)
著:レーモン・クノー / 訳:朝比奈弘治

実験的な作風で知られるフランスの詩人・小説家 レーモン・クノーの著書

以前、ライティング関連の本を読んでいたときに、
「自分の文体を持っているライターは強い」といった内容があり、
その時から、たびたび「私は自分の文体を持っているんだろうか?」と、文体について考えるようになって、その関連で見つけたのが、この本だったりします。(…自分の文体については現在も模索中です)

ただ、3,000円以上する高い本で、近くの本屋さんには売っていなく、
購入前に実物をチェックすることができず…。
さらに、Kindleでサンプルをダウンロードしたものの、購入を判断できるほど内容が見れず…という感じで、長い間、購入をためらっていました。

なのですが、雑誌で紹介されているのを何回か見て、また気になりだし、思い切って購入。
「どんな本なんだろう」「ちゃんと読み切れるのか」等、若干の不安はあったのですが、予想以上に自分好みの本で面白く読むことができ、アイデアの斬新さに刺激を受けました。
この本に出会えて良かったと思っています。

で、気になる本の内容ですが、

バスで、首が長く変な帽子をかぶった男が乗客と口論していたが、
空いた席を見つけると、男はあわてて座りに行った。
2時間後、私は、その男がサン=ラザール駅前で、友人から着ているコートについて助言を受けているのを見かけた。

という内容を、99通り(+付録3通り)の文体で書いたものです

文体の種類は、「語順改変」「主観的な立場から」「短歌」
「リポグラム(特定の文字を一切使用せずに文章を書くこと)」「いんちき関西弁」「確率論」など、視点や語り口を変えたものから、文章や単語・文字を一定の規則に従って改変したものまで、さまざま。

なかには、頑張って絞り出したのか、無理やりなものや意味不明なものもあったりするのですが、「こんな表現の仕方もあるんだ」「こんな考え方もありなんだ」という文体もあり、言語表現の多様性を感じました

あと、著者の「100通り近い文体のラインナップを考え、その文体で実際に文章を書く」という発想力・実行力が単純にすごい
人間の持つ「考える力」の可能性は無限大で、ここまでできるのか…と驚かされます。

タイトルは「文体練習」とやや硬い印象ですが、
ユーモアも盛り込まれていて、クスッと笑える箇所も多いので、普段あまり本を読まない人でも読みやすいと思います。
ちなみに私は、音読しながら読んだりもしたのですが、音読すると、言葉のリズムがダイレクトに伝わってくるので、なかなか面白かったです。

また、後半には、各文体(※一部を除く)についての翻訳者の解説もあり、
翻訳の苦労や、文章・言葉の仕掛けが説明されています。作品の裏側が知れるので、本書を読む際は、こちらもお忘れなく。
こうした翻訳はレアなようで、翻訳者の方はもちろん大変だったと思うのですが、逆にこうした本の翻訳を担当できるのは、とてもラッキーなことなのかも…と思いました。

やや高額な本ですが、印刷やレイアウトに凝っているページも多く、
おしゃれでアートに近い部分もあるので、人によっては、画集感覚で読めると思います。(プレゼントにもあり。)
ちょっと変わった本を読みたい方や、文字に限らず表現の幅を広げたい方はぜひ。
何か面白い発見があるかもしれません。

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