2021年の漫画界 予測 : Webtoonは日本でブレイクするか?
ーーー 2021年6月に追記 ーーー
こちらの記事を公開したのが2021年1月8日。
予想通り、Webtoonが日本においてもめざましい発展を続け、状況は日々刻々と変化しています。
それに伴って、Webtoonに関する記事も増えてきました。
良質な記事と思われたものを、随時、こちらに貼っていくことにします。合わせてご覧いただければ幸いです。
ーーー 以下が、2021年1月に記した本文となります。 ーーー
■Webtoonがいよいよ日本でも広がっていく
『鬼滅の刃』一色に染め上がった感の強い2020年の漫画界、
2021年は果たしてどんな状況になるでしょうか。
私はWebtoon(ウェブトゥーン)がいよいよ日本でも広がっていくと予想しています。
「いやいや、見開き単位の漫画がこれだけ根付いている日本では
Webtoonは盛り上がらないよ」という考えの人もいるでしょう。
皆さんの考察の参考になるよう、そして、私自身も熟考するため、
示唆に富むWebtoon関連記事を紹介して、コメントを付記していきます。
■Webtoonをざっくり説明&代表的な作品紹介
Webtoonとは、縦スクロールして読む漫画形式(タテスク漫画)で、スマホ読書に非常に適しています。韓国が発祥と言われています。
こちらのサイトで詳しく説明されています。
とはいうものの、実際に読んでみるのが一番の近道なので、代表的な作品へのリンクを付けておきます。
日本の人気漫画家・東村アキコさんのWebtoon作品
『偽装不倫』
全世界8億View突破し、「アメリカNo.1 WEBマンガ」と銘打つ
『ロア・オリンポス』
さらに、自分で作ってみたWebtoonがこちら。
タテスク漫画のポイントをつかむには、自分で作ってみるのが一番の近道。
そう思って、学生時代に絵本として描いた作品を、Webtoon(縦スクロール漫画)に加工して、LINEマンガに公開してみました。
やはり、読むだけと、実際作ってみるのでは雲泥の差です。
コマ割漫画とはポイントがかなり違いますね。
非常にいい学びになりました。
さて、本題に入ります。
■最大の漫画サービス「LINEマンガ」がWebtoon主導を宣言
まず注目すべきは、2020年11月公開のこちらの記事。
アプリのダウンロード数3,000万を超える日本最大のサービス「LINEマンガ」の平井漠氏へのインタビューです。
<ここ数年、日本の電子書籍市場をはるかに上回る成長率でウェブトゥーン市場は大きくなっており、グローバルではウェブトゥーン(縦スクロール作品)がスタンダードになっています。
たとえばNAVER WEBTOONはグローバルMAUで各国およそ67000万人以上の読者がいますが、将来的には日本よりグローバル市場の方が大きくなる可能性もあると思います。>
「可能性もある」と言っていますが、おそらく、確信していると思います。
そして、何より注目すべきは組織形態の変化です。
<今年の8月からWebtoon Entertainment Inc.が我々の親会社となり、
NAVER WEBTOONと同じ親会社を持つ企業として
グループ間の連携を本格化させた体制になりました。
コンテンツや人的リソース、データ分析などに関する知識など、様々な部分でグループ間のシナジーを高めています。
NAVER WEBTOONは北米や韓国を中心に世界各国でマンガサービスを展開しているプラットフォームですから、今後は出版社から提供いただいている独占配信作品も含め、LINEマンガ発の作品を同社のプラットフォームを活用し、グローバルで展開できればと思っています。>
Webtoon Entertainment Inc.(Webtoon Ent)は、本社が米国カリフォルニア州にあり、金 俊九氏がCEOを務める会社です。
LINEが33.4%の株を保有しています。
グローバルウェブマンガサービス「LINE WEBTOON」は、米国ではWebtoon Entが運営しており、2019年米国だけで1,000万MAUを突破しているそうです。(有料コミック・小説サービスの「NAVER SERIES」なども含めた数値かもしれません)
スペイン語、フランス語サービスを展開して南米と欧州でも支持を集めているようです。
LINEのコーポレートサイトでの記事 「LINEマンガ」を展開するLINE Digital Frontier株式会社における資本変更のお知らせ 「1. 本資本変更の背景と目的」から重要な要素をピックアップします。
・LINE Digital Frontierが、Webtoon Entの傘下に入り、経営資源を集中させ、グループにおける関係性をより強化することで、Webtoon Entが持つ世界最高レベルの電子コミックのノウハウや人材を得ることによるオリジナル作品の強化およびデジタル作家の発掘育成の強化を図る。
・米国や韓国、その他で展開するWebtoonサービスと連携することによるスケールメリットを得ることで、「LINEマンガ」や日本作品、日本のデジタル作家のグローバル展開を「LINEマンガ」がリードし、機会を拡大する。
要するに、「LINEマンガ」はアメリカでWebtoonを運営する会社が舵を取り、
日本の漫画作品、漫画作家をWebtoonで積極的に海外に売り出していく、
ということになります。
これだけを踏まえても、2021年、Webtoonから目を離せないことは明らかです。
日本国内だけならば、たしかに「結局、Webtoonは広がらなかった」という結果になる可能性もなくはありませんが、
こと世界規模で見れば、Webtoon市場が広がらない理由を探すほうが難しいかもしれません。
■漫画制作ツールの代表「CLIP STUDIO」がWebtoon制作に対応
続いては、制作(漫画家、クリエイター)側から見ていきます。
イラスト・マンガ・アニメーション制作ツール「CLIP STUDIO PAINT」の最新バージョンVer1.10.5が、Webtoon制作機能が向上したという2020年12月の記事です。
<スマートフォンでの見え方を確認したり、縦長のキャンバスを指定した画像サイズで分割して書き出すなど、縦スクロール、フルカラーのWebtoon制作のための機能を追加>
「CLIP STUDIO PAINT」はプロの漫画家さんも多く使用しているツールなので、このアップデートがもたらす影響は小さくないはずです。
ちなみに、見開き単位の漫画とWebtoonの漫画の表現方法の違いは、
こちらのクリエイター向け記事でとてもよくわかります。
■Webtoonの学術研究記事も
日本語で読めるWebtoonの学術研究記事は少ないので、2012年とだいぶ前のものになりますが、パク・スイン(朴秀寅)氏による「韓国のウェブトゥーン 」は参考になります。
「表現の民主主義の時代」という文言は、Webtoonにおける非常に重要なキーワードだと思います。
■MARVEL(ディズニー)の動向が最注目か
ここからは私の推論が主になります。
漫画を世界規模で考えていく際に、絶対に考えなければならないのは、
アメコミ界の巨人・MARVELが、どう動くのか、ということです。
MARVELの存在感は欧米のみならず、アジアでも圧倒的です。
(日本にいるとMARVELの力をあまり感じません。それだけ、日本の漫画が特殊・特別ということです。
誇らしいことですが、そのことにあぐらをかいていると、これからは相当危険です)
もし、MARVELがWebtoonに本腰を入れたら…
その瞬間に、漫画を取り巻く状況は大きく変化していくはずです。
夢物語では全くありません。
LINE Digital Frontierの親会社・Webtoon Entはアメリカにある会社です。MARVELとの提携は当然、目指しているでしょう。
交渉は既に始まっているかもしれません。
しかし、MARVELはディズニー傘下ですから、Webtoon Entと組まず、
ディズニーグループのサービスとして展開してくることも考えられます。
すでに全世界に8,700万人(2020年12月時点)の有料会員がいる「Disney+」の一サービスとして展開してきたら…
Webtoonは「Disney+」への集客、映像作品のプロモーション、トライアルのツールと考えて、無料開放したら…
海外は言うに及ばず、日本国内の潮目も一気に変わるかもしれません。
■総括:Webtoonの大波は日本にも訪れる
日本で生まれ育つと自然と漫画の読み方が身につきます。これは素晴らしいことですが、だからこそ、海外のニーズを見誤りがちです。
コマの流れを正しく追い、そこから動きや音、時間を感じ取ることは、海外の多くの人にとっては、とても難しいことです。
Webtoonはそのハードルを越えてくれる表現形態です。
見開き単位で展開される漫画に親しんできた個人としては今のままの漫画形式で十分満足なのですが、この先、漫画を海外で広げていくことを考えると、Webtoon化の流れは必然、と思います。
上記の通り、2020年の動向から判断するに、
いよいよWebtoonの大波は日本にも訪れてくることになりそうです。
その際にライバルとなるのは、
LINEどころか、MARVEL、ディズニーの可能性も十分ありえます。
テンセントなど中国企業が日本の漫画作品に手を伸ばしてくることもありえるでしょう。
このまま漫然と過ごしていると、日本の良質な漫画作品を海外に吸い取られて、小銭稼ぎだけしておしまい、
という事態に陥る可能性は相当高いと思います。
集英社の「MANGA Plus」が切り開く道に、他の出版社も乗っていく、
というのも有力な手段かもしれません。
いよいよ始まった2021年、
後々振り返ると、「あのタイミングでの選択が分岐点だった」と言われる年になるかもしれません。
漫画に関わる一人として、私も果敢に挑戦していきたいと思っています。