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『ケエツブロウよー伊藤野枝ただいま帰省中』 青年座

2024年5月31日(金)18:30
@紀伊國屋ホール
¥5000(夜公演割引)

青年座、初観劇。
那須凛ちゃんを観たくて、でも他のキャストは誰も知らないのよね~~。と、ちょっと躊躇していたらいつの間にか開幕していた。あっという間に中日と聞いて、慌ててチケットを購入。かなーり後方の端っこしか残ってなかったけど、しょうがない。あーあ、さっさと腹を括っておけば、アフタートークの日にしたのになあ。マキノさん宮田さんの作演コンビと凛ちゃんが登壇したんだそう。お話聞きたかった~~!しょげん。
それでも観てよかった。おもしろかった! 伊藤野枝は那須凛ちゃんにぴったりな気がする。

と、言いつつ。伊藤野枝については奔放な人生を送った活動家・・・という雰囲気くらいしか認識しておらず。アタシには珍しく、前もってウィキをさらっと読んでおいた。たぶん何も知らずに観ても楽しめたと思うけど、やはり読んでおいてよかったと思う。
さらっと読んでも、28年とは思えないものすごく濃ゆい生涯でびっくりする。物書きとして小説・随筆・評論に翻訳もしてるし、婦人開放運動、アナキスト、恋愛・結婚、子供は7人産んでるし、とんでもない。
最後は大杉栄と共に憲兵に殺され(甘粕事件)・・・という野枝の激しい人生、どんな凄まじい芝居かと身構えたら、思いのほかあたたかいホームコメディ風味のお話であった。

あらすじ
1912年(大正元年)。野枝は東京の女学校を卒業して帰郷し家の決めた許嫁と結婚したが、8日めに婚家を逃げ出し実家にいた。家族親族が離婚に反対するが、「嫌なことは絶対しない、自分自身を成長させたい」と宣言し、平塚らいてうから送られてきた金を持って出奔。
3年後、次男の出産で夫の辻潤と帰省。父母は初孫にメロメロ。
その後は辻と別れ、次のお相手・大杉栄とともに帰省。大杉を無政府主義者の大立者とて身震いした家族親族らも、野枝のパートナーとして、市井の一個人として受け入れていく。そして野枝の生き方も。
そして大正12年、野枝は二度と帰省できなくなる。

そう、副題のとおりこの話で描かれるのは「帰省中」の野枝。舞台は福岡は今宿にある彼女の実家。家父長制度やら色々と思うところあれど、まあ時代だし。とにかく登場人物のキャラクターがとてもよくて、そして役者さんが皆さん達者で、ほんと愛すべき隣人たちだったあ。東京の野枝ではなく、家族や近所の人などのあたたかい視点があるから、こういう温かみのあるお話になったんだな。

仲良しの妹とのやりとりはほっとしたし、辻が浮気した従妹のキミちゃんとのシーンも好きだ。ちゃんかちゃんかドンガドンガも、はじまった瞬間に「こりゃ全員で踊るパティーンだな」と分かったけどやっぱ笑っちゃったし。ウメ母さん、サトばあちゃん最高に佳き。叔父さんも懐深くてかっこいい。
そしてお目当ての凛ちゃん、やっぱすごくいい。パワフルで生き生きとして美しくてかっこいい。

福岡の言葉はどの程度再現されているのかはわからないけど、九州の友人が何人かいたアタシには懐かしくもあったが、けっこうコテコテでギリ理解できるラインだったかも。
最初のシーンは野枝の言葉もコテコテだったのに、次の帰省から訛りがとれて、ちょっとツンとしたインテリ風の言葉遣いになっていた。当時の文人はこういう喋り方だったのかな。
そしてタイトルの「ケエツブロウ」とは海鳥(福岡の俚言)だとどこかに説明があり、何の鳥かなあとおもってたらキュルルルルと、冒頭で聞き覚えのある鳥の鳴き声が。お、カイツブリか!
でもカイツブリって川とか池で見る鳥だけど? と、調べてみた。カイツブリは川・湖沼の鳥で、海鳥はハジロカイツブリ、ミミカイツブリ、カンムリカイツブリ、アカエリカイツブリ・・・といろんな種類がいるらしい。野枝の詩に詠まれたのはどれだろうなあ。


野枝も大杉も、大杉に心酔する西山も、ものすごい熱量で生きている感じが伝わる。自分たちの信ずる道を突き進む。押し付けられた意にそまぬものを跳ね返す力強さ。当時の人たちのパワーはすごいな。いま、自分たちの置かれた状況はとんでもなく酷いものなのに、それを跳ね返す気概はアタシにはない。もちろん当時にもアタシみたいな腑抜けもたくさんいただろうけど。当時の活動家のような人間は減っているのだろうか? 今のこの圧政・悪政を糾弾する勇気や力があればと思うけれどとても無理だ。知恵も力も勇気もない。気概があっても野枝たちの最後のようなことだって、起こりかねないように感じる。おそろしくないですか。


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深月
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