見出し画像

『Bug』 serial number

2023年2月17日(金)19時開演
@新宿サンモールスタジオ
¥5,500

昨年11月の公演が中止になり、キャストや劇場を変えて上演されることになった演目。
このご時世、ただでさえ演劇界は大変だろうに、よくぞ上演してくれたものだ。キャストが変更になったのは残念だけど、出来上がった作品はすごかった。

【ものがたり】
息子を亡くし、暴力夫から逃れるためにオクラオマ州のモーテルに暮らす孤独な中年女アグネス。
そこに友人が連れてきたピーターと関係を持つが、ピーターは自分の身体に虫が巣くっていると言う。
男は虫を駆除しようと躍起になり、異常性を増していく。
その狂気はアグネスをも感化していく。
国家の陰謀にまで広がっていくそれは妄想か果たして事実か。

公式サイトより)

リアルに作り込まれたモーテルの一室が舞台。中央にベッドがあり正面の壁にはポロック風の絵がかかっている。まず最初にこの絵が気になった。何だかこの演目のビジュアルに寄せているのか、カラフルな飛沫が虫のように見える気がして不穏なイメージ。
ラジオから流れるカントリー。アグネスが煙草に火をつけエアコンのスイッチを入れる。作動音が室内に響く。
何かの洋画で見たような、哀しさとか倦怠感みたいなものが混ざった空気が部屋中に漂う気がした。

虫の卵が体に植え付けられている、それは軍だか国家だかの陰謀だ・・・というのはピーターの妄想と思って見ていたが、途中から「え、まさか?」とわからなくなってきた。
でもこれは、妄想か陰謀かってのはどっちでもいいんだな。
「真実はわからない」
「信じたいものだけを信じるのが人間」
ラストはふたりで破滅に一直線だけど、愛しあい信じあって目的に向かってダッシュしたんだから、結局彼らはしあわせなのかもな~。

この作品はR15指定だそう。
舞台作品でそういう「R」指定がついたのなんて初めて観たなあ。
性描写はほとんど無かったけど、ドラッグや暴力はかなりがっつり描写があって。登場人物はほぼ全員薬物やってて、虫だ陰謀だって言うのは中毒のせいかなって最初は思った。陰謀だなんてすごいトンデモ話に思えたけど。気がつけばいま現在そんな話があふれてるんじゃ・・・。世界を一変させたパンデミックとか、宗教とか、政治とか。この上演はいまの時代にリンクしてるけど、それってめっちゃ怖い。

変更前のキャストでも観てみたかった気持ちはあるけど、今回のキャストはとっても良かったので結果オーライで。(昨年のキャストでつくられたビジュアルは、美しくもかなり扇情的だったので、どういう話になってたのか気になる・・・)

アグネスの李さんは、直近のserial numberからの連投。まさに熱演。素敵でした。
ピーターを演じた鈴木さんはserial number『すこたん』で知って、今回は二度目ましてなんだけど、相変わらず不機嫌なイメージ。だからアタシの中で彼はちょっと怖い人。なので今回の役柄はぴったりすぎて。
DV夫のジェリーは粟野さん。風琴工房時代の『penalty killing』他で見せていた温厚なあの笑顔がこんなに怖いなんて。怒鳴って暴力を振るうシーンでは、お芝居とわかっていてもビクッとしてしまった。
流山児のおふたりは安定感。
ドクターは殺された後、ドアにもたれかかっていたけど・・・ずーーっと口をモグモグさせていたので、(本当は死んでないのかな? もしや人間じゃないとか?)と何かどんでん返しがあるんだと思って身構えていたらそのまま終わってしまった。アレは何だったんだろう・・・

すごいものを観たなー! 色々と気になるし、パンフが欲しいなと思ったけど物販は何もなかった~。残念。


アグネス  李千鶴
ピーター  鈴木勝大
ジェリー  粟野史浩(文学座)
ロニー   伊藤弘子(流山児★事務所)
Dr.スイート 塩野谷正幸(流山児★事務所)


いいなと思ったら応援しよう!

深月
いただいたサポートは次の記事のタネである観劇代ライブ代木戸銭の足しにさせていただきます!

この記事が参加している募集