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『イノセント・ピープル ~原爆を作った男たちの65年~』 CoRich舞台芸術!プロデュース
2024年3月20日(水・祝)
14時開演
@東京芸術劇場シアターウエスト
¥5800
過去の名作を演劇サイトのこりっちがプロデュースして再演するという企画。その第一弾。森下亮、三原一太両氏が出演ということで気にはなっていた。
けれどたぶん重い話だろうからちょっと迷っていたけど、開幕してから評判が良いのを目にして「よし!」っとチケットをとった。観ていて楽しい作品ではないけれど、やはり観ておいて良かった。
【あらすじ】
アメリカ ニューメキシコ州ロスアラモス。原子爆弾開発に従事した科学者ブライアン・ウッド。ヒロシマ・ナガサキに落とされた2発の原爆を作り上げた5人の若者たち。
これは、彼らが歩んだアメリカの「第二次世界大戦後」の物語である。
アメリカは朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラン・イラク戦争と、戦地へ若者を送り続けた。戦後も原爆・水爆製造に携わるブライアン。しかし、彼の息子はベトナムへ、そして娘はヒロシマの被曝2世と結婚する。
ギリギリでチケットを買ったので席は一番後方列だった。シアターウエストならばそれでも舞台からそれほど距離がある訳じゃないのでそれは構わないが、自分の視力がめっちゃ衰えているのを痛感。小道具が全然見えない。
焼け野原や瓦礫のようなセットだったのだけど、食事のシーンでチキンだったかの肉を皿に盛ってあったのが緑色の塊で、どう見ても肉に見えず(何だろう?)と不思議だった。アフタートークでその点に言及があってやっと判った。
あの肉は溶けて歪んだビンだったのだ。クッキーは歯車、ナッツは銃弾、フルーツは手榴弾、ラム酒は黒く着色した米、など。元々は古き良きアメリカのリビングの予定だったのが、「具象はやめよう」ということでこうなったそう。何という不穏な設え。
アフタートークに参加せずにいたら、これらのことはまったく解らないままだったろうな。今度からは小さい劇場でも後方席ならオペラグラスを用意しよう。「さあ召し上がれと供された食べ物がアレだったのがちゃんと見えていたら、自分はどう感じただろうか。
トークの内容は概ねパンフに掲載されていた内容と同じだったので、帰宅後おさらいをした感じ。
物語の最初は若者たちの青春群像。仕事に恋に、溌剌として微笑ましく。けれど彼らが携わっているのは恐ろしい兵器の開発なのだ。原子爆弾の完成から65年の年月を、行きつ戻りつ描いている。
原爆の開発は戦争を終わらせた素晴らしい成果であり、それが正義なのだと言う認識。彼らは自分たちの仕事とその成果を誇りにして生きていくが、戦争というものが晴れがましいものである訳がなく。
ブライアンの息子はベトナムで負傷し車椅子に、グレッグの息子はイラクで戦死。自らの所業を肯定できずに自死したジョン、開発中の事故で放射線を浴びたキース。
キースの体を診ていた医者のカールは、数十年経ってから被曝量を偽っていたことを告白する。被曝データを集めるためだと・・・
アメリカの話を日本人が書いて、アメリカ人を日本人が演じる。そしてその中に日本人も登場する。これまであまりないパターンの演劇のような気がする。
アメリカ人たちは当然のことながら日本を見下し、日本人をジャップ、猿と暴言を吐く。けれどそのアメリカ人も日本人が演じているのだ。最初、演者さんたちはそういった言葉を言うことができなかったそう。稽古ではまず、そこをほぐすところから始めたのだとか。劇中にそういった言葉が出るたびに、観ている自分はすごく腹立たしく感じたが、演じている方はもっとキツかったんだな・・・と思い至った。
劇中の日本人は白いのっぺらぼうのマスクで、この異様な雰囲気にぎょっとする。英語を話せないことや異邦人であることを表しているのか、主人公たちが彼らに個を感じていないという意味なのか。
娘シェリルが亡くなり、嫁ぎ先の広島を訪れるブライアン。英語を話すようになったタカハシはマスクを外し、家族や仲間を紹介する。そして「シェリルは謝ってくれた、原子爆弾を開発したあなたにも謝って欲しい」と強く要求した。この時のジリジリとした緊迫感がすごかった。自分も日本人だし謝って欲しいと思う側だけど、白いマスクの集団が発する圧が薄ら寒く。モヤモヤと腹の中にわだかまった。
ブライアンは決して謝らず、「気の毒だと思う」とだけ言う。
その時シェリルの娘・ハルカが帰宅し、身重のお腹にブライアンが手を伸ばしたところで幕となった。
ラストの意味はどういうことなのか、明示されないまま。
色々と咀嚼しきれていないけど、さまざまな思いがわいてくる。いろんな視点があり、何が正しいかなど解らない。
この話を書く元になったインタビューがあるとアフタートークで話に上がった。2005年のTBSの特別番組「“ヒロシマ”・・・あの時、原爆投下は止められた」のなかで行われたハロルド・アグニュー氏のインタビューだそう。YouTubeで公開されているので、興味のある方はご覧ください。このインタビューは、タカハシとブライアンのやりとりそのものという感じ。
動画を見るのが辛い方は全内容が記されたnoteの記事もあります。
初演は2010年、そこがラストシーン。14年経って世の中が大きく変わり、より切迫したものになってきているのが恐ろしい。
* * *
CAST
ブライアン・ウッド 山口馬木也
シェリル・ウッド 川島海荷
ウィリアム・ウッド 池岡亮介
ジェシカ・ウッド 川田希
タカハシ・ヨーイチ 小日向春平
ジョン・マッケラン 森下亮(クロムモリブデン)
リンダ・マッケラン 堤千穂(演劇ユニット鵺的)
キース・ジョンソン 三原一太(はらぺこペンギン!)
ニナ・ジョンソン 水野小論(ナイロン100°C)
グレッグ・シウバ 内田健介
マーシャ・シウバ 安川摩吏紗
カール・コワルスキー 阿岐之将一
ルーシー・ローチ 大部恵理子
リチャード・シウバ 神野幹暁
タカハシ・ハルカ 花岡すみれ
ベロニカ・タバーレ 保坂エマ
脚本 畑澤聖悟(渡辺源四郎商店)
演出 日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
イープラスのサイト(SPICE)に舞台写真あり
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