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『神話、夜の果ての』 serial number#11

2024年7月11日(木) 14時~
@東京芸術劇場シアターウエスト
¥6,000(一般)

風琴工房の頃から観続けているカンパニー、serial number。
一作ごとにテイストがけっこう変わるので、好みでブッ刺さることも「グゥつら・・・」なことも、「ムムム?」となることもある。それでもやはりすべて気になる作品なので、毎公演楽しみにしているが、今回は「グゥつら」系。情報が公開された時から予想はついたので、身構えてはいたけど、やはりグゥとなった。

【あらすじ】
青年は目を覚ますと、精神病院にいた。自分がなぜここにいるのか、自分が誰なのかさえ青年はわからない。そばにいるのは、精神科医と夢とも現実ともわからない少女である。
ある日、精神科医の元を弁護士が訪ねてくる。国選で青年の弁護士となった彼は、保護室にあり「心身喪失状況」の青年と面会することもできていない。
4人の会話は迷走し、もつれ、記憶と現在と精神を行ったり来たりしながら、青年の苦しみと、結果犯してしまった犯罪のかたちが浮かび上がる。

公式サイトより

注)ネタバレしています

宗教2世のお話。
と聞けば、明るい話じゃないのはわかっていたけど。

シンプルな舞台の真ん中に置かれたベッド。その上で青年ミムラが呟くように言葉を落とし続ける。
「夢の中で僕は3日に1回母を殺し、3日に1回母を犯し、3日に1回母から産み落とされる────」
母に連れられカルト宗教の施設に入れられた少年は、ずっと母のことだけを考えて続けて生きていたという。

世の中から隔絶された施設で過ごし、虐待に遭い、歪んだ教育をされ、心と体を通じ合った少女は自死。精神を病むのはごく当然だろう。結果、メサイア(教祖)と母(すでにミムラを自分の子と認識していなかった)を刺殺してしまう。

事件となり、保護されたミムラは精神病院に。弁護士のクボタはミムラのため熱心に通うが、会話をさえもままならない。そうこうしているうちにミムラは精神科医をも殺害してしまう。無力感に立ち尽くすクボタもまたカルト2世だったのだ。彼は祖父母に助けられたけれど、祖父母がいなければミムラと同じ道を辿ったかもしれない。

作・演出の詩森ろばさんはミムラを救いたかったけれど、それはできなかったのだという。作家なのに、自分の作った物語なのに、救えなかったなんて。
宗教が、本来は人を救うためのものであったはずなのに、この現実とは。

夜の果てには朝があるのじゃない、夜の果てにはまた夜があるだけ───

話の結末に救いはなく、ただこういう現実があるのだと示されて終わる。
明けない夜がある、やまない雨もあるということを思い知らされる。
そして何かできることはあるかと考えるも、実際は何もできないと思い知る。
ここでもやはり犠牲者はこどもなんだよなあ。痛々しくて苦しい。軽々しく感想とかも書きようがない。

パンフにもあったけど、キャストの皆さんは宗教やカルトについては遠い存在だったようで。私もあまり身近には感じていなかったけど、オウムの事件の時はすでに成人だったから、その分知識としては演者さんよりはあったかもしれないけれど。アレはすでに30年前だからミムラ、シズル、クボタ役の子たちはよく知らないだろう。
首相銃撃事件からは2年。こちらについては皆知っているだろうが、でもやはり自分とは離れた世界のことのように感じていた気がする。闇が深そうで詳しく知ることを避けていたかもしれない。


これを観た翌日、12日の公演は主役を代役で行ったという。コロナの濃厚接触者となったためらしいが、検査の結果陰性で翌日からは復帰だそう。
いやしかし、ミムラの代役なんてずいぶんと荷が重そうだけど、アンダーの方はきちんとこなしたらしい。すごいなあ。きちんと準備してあったのだなと感心してしまう。12日に観劇した人は、希望すれば本役の公演も観ることができるらしい。時間に余裕がある人は、両方観られてお得なのでは。12日しか観られない坂本くん目当ての方は悲しいけど。

坂本慶介くんはあまり詳しく知らないけどミムラいいじゃん・・・と思ってたら、えっそうか『ひみつせん』に出てたのね。『エンジェルス・イン・アメリカ』でも観てるわ。その後、阿佐スパの『ジャイアンツ』でも・・・。大丈夫アタシの頭・・・?! 
田中亨くんは『おわたり』でばっちり印象に残ってるので楽しみにしてたんだけど、何て言うかやはりどこか儚げに感じるのは『おわたり』のせいかな。
このふたりが出てるのに、なぜデカローグを観なかったアタシ。いや普通に考えて10作は怯むよね。他にもきになる役者さんが行く人も出てたんだけどねえ。ふむ。

他のキャストも皆よかった。かわいらしく痛々しい川島鈴遙さん。ふた役を演じる意味を考えさせる、おじさま方。安心の杉木さんとナイロンの重鎮・廣川さんはもう安心感しかない。
しかししつこく言うけどなんで田島亮くんは出ないのかしら。まだメンバーとしてサイトに載ってるんだけどね・・・

閑話休題。
この作品、ろばさんは「書かなくてはならない」と思ったそう。たぶん、こういう作品は必要なのだろう。ろばさんと一緒に、私も祈るしかない。


ミムラ 坂本慶介
シズル 川島鈴遙
クボタ 田中亨
刑務官/キジマ 杉木隆幸
精神科医/メサイア 廣川三憲

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