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顧客に『なぜ』と聞いしまってないか?正しいユーザー・インタビューの技法

みなさんは、ユーザーインタビューでどんな質問をしていますか?

事業立ち上げで顧客の課題を確かめる際、顧客や将来の顧客候補とのユーザーインタビューでこんな会話をしていませんか?

「○○(課題)で困っていませんか?」
「なぜ○○(課題)で困っているのですか?」
「○○(課題)のうち、特に困っていることは何ですか?」

この質問に違和感がなければ、ユーザーインタビューとしては不十分かもしれません。

これまで携わってきたどの事業でも、顧客の課題は一見それっぽく見えました。

しかし、よくよく確認してみると事業の作り手である「自分たちが課題と決めつけている」ケースが多くありました。

僕自身の経験を振り返ってみても、事業立ち上げの当事者になると、どうしても「顧客はこういう課題を持っているはずだ」と思い込みたくなってしまいます。そもそも思い込んでいると言う自覚さえない事がほとんどでした。

その錯覚がどこから来るのか、そもそも何をどうやって聞けばいいのか?

これに応えるため本記事では、実際に僕自身や関わった事業でチームに実践してもらってきた、の課題を見つけるための「聞き込みインタビュー」の手法について具体的に説明したいと思います。

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これまで携わったスタートアップや新規事業の立ち上げを数えてみると16の事業がありました。

その中には自分で創業したもの、プロダクトマネージャーとして従事したもの、ハンズオンで深くもしくは浅く関わったものなどがあります(経歴はこちら)。

事業立ち上げでは「誰の何を解決するのか?」という問いかけが大切です。「何を」という部分は「顧客の課題」とも言えます。

本記事で触れる「聞き込みインタビュー」では、顧客の課題を把握するためのユーザーインタビューについて述べます。プロダクトの使用感などに関するユーザーインタビューは本記事の対象外としています。


1. ユーザーインタビューによって逆に分からなくなる

さっそく逆説的なのですが、課題を把握するために行なったユーザーインタビューによって返って課題が分からなくなるケースによく遭遇してきました。

なぜなら、大抵の場合は顧客が「困っている」と答えるからです。

私 「困っていますか?」
顧客「はい、困っています」
私 (本当かな。。どのくらい?お金払ってでも解決したいのか?)

全国各所でユーザーインタビューしたことがあります。

しかし、上のように聞き方を間違えていたため、顧客が「本当に」困っているのか分からなくなったことが多々あり悩みました。

正確に言うと「顧客は困っているように見えるのですが、本当に困っているのか分からなくなった」と言ったほうが正確かもしれません。

つまり、お金を払ってまで解決したい重要な問題なのか?と。

「○○(課題)で困っているか/いないか?」と聞かれると、大抵は困っていると答えるものです。大抵は困ってはいるのです。

例えば、優秀なエンジニアの採用に困っていますか?と聞かれると、困っている、と答える企業がほとんどでしょう。

それにも関わらず、実際に顧客が「困っている」と言うと、事業で解決すべき課題かのように錯覚してしまいがちです。

■「答えは顧客の中にしかないが、顧客は答えはわかっていない」

このような矛盾する中でどうやってユーザーインタビューするかを模索して実践してきたのが「聞き込みインタビュー」です。

2. 顧客に困っているかを聞くのをやめてみる

「○○(課題)に困っていますか?」という質問が何を聞いているのかというと、顧客が思っていることです。

つまり、顧客の主観を聞いていることになります。

顧客がどう感じているか、思っているかは大事です。

しかし、もっと大事なのは、顧客が課題を解消するために実際に何をしているか?なのです。

つまり、客観的な事実を集めることが大切なのです。行動はファクトであり確認することができます。

例えば顧客が大金を積んで課題を解決していたとしたらどうでしょうか?明らかにそれは解決すべき問題のはずです。

では何を聞けばいいか?そのヒントが5W1Hにあります。

まずは5W1Hについて考えてみましょう。

Why / Who / What / When / Where / How

この中に仲間ハズレが1つあります。

Whyです。Whyだけが主観を聞いているからです。

残りの4W1Hは、客観的な情報です。聞き込みインタビューの鍵は4W1Hにあります。

困っていますか?のような主観を聞いたり、Why(なぜ、理由)を聞くのをやめ、4W1Hなどを使って実際の行動を引き込んでいくことが聞き込みインタビューです。

3. 課題にまつわる行動を4W1Hで聞き込む

イメージしやすくするため、次の架空のプロダクトの例で考えてみましょう。

■ 架空のサービス
イナカート:田舎版インスタカート。田舎の過疎地で車の運転が困難になった世帯の買い物を代行
※元ネタのインスタカートは米国の企業で、スーパーでの買い物を個人のショッパーが代行し、即日配送してくれるサービス。ウーバーイーツの買い物版みたいなサービスです

聞き込みインタビューのターゲットを「車の運転が難しくなった高齢者」と仮定してみましょう。

田舎の場合、徒歩圏内にスーパーがない場合が多いため、車の運転が難しい方々は買い物が難しそうです。

「買い物に行くのに車での移動に不安がある」という課題がありそうです。

ポイントは、お金を出してまで解決したいのか?です。

まず課題を考えてみましょう。

【課題(仮)】
「買い物に行くのに車での移動に不安がある」

課題を確かめるために、次の質問をしたとしましょう。

【よくあるインタビューの例】
私   「運転は大丈夫ですか?」
Aさん「あまり運転したくないです」
Bさん「別に大丈夫です」
私  「Aさんはなぜあまり運転したくないのですか?」
Aさん「歳をとって鈍くなったので事故でも起こしたら大変だし不安です」

Aさん、Bさんどちらのケースも想定されます。

これの質問からはあまり情報はなかったのではないでしょうか?

なぜならファクトつまり客観的な事実がないからです。得られたのはAさん、Bさんの主観だけでした。

Aさんの不安です、という言葉を鵜呑みにできますか?判断が難しい、というのが率直な感想だと思います。

では「聞き込みインタビュー」ではどう聞くのでしょうか?

【聞き込みインタビューの例1】
私    「Aさんはおいくつですか?」
Aさん「83歳です」
私    「最近スーパーに行ったのはいつですか?」
Aさん「昨日行きました」
私    「何で行きましたか?」
Aさん「車で行きました」
私       「誰が運転しましたか?」
Aさん「妻が運転しました」
私       「その前は誰が運転したのですか?」
Aさん「その前も妻ですね」
私       「奥様はおいくつですか?」
Aさん「75歳です」

このように聞き込みインタビューでは、まさに聞き込みを行うかのように事実を中心に情報を集めていく手法です。

さらに続けてみましょう。

【聴き込みインタビューの例2】
私       「スーパーに行く以外に車を使ったのはいつですか?」
Aさん「私自身はないですね。夫婦で車で出かけることもなくなりました」
私  「Aさんがスーパー以外にお出かけしたのはいつですか?どちらに行かれました?」
Aさん「2週間くらい前に昔からの知人らとの会合に夫婦で参加しました」
私  「その前はいつですか?」
Aさん「1ヶ月くらい前に隣町のデパートに息子の家族と出かけました」
私  「スーパーには先週何回行ったのですか?」
Aさん「3回は行きましたね。二日に一回は行きます」

Aさんはスーパーでの買い物以外は、ほとんど車での外出を行なっておらず、ご自宅の周辺から動かない生活をしていることはわかりました。

しかし、ユーザーインタビューの目的は課題の確認です。聞き込みインタビューでただファクトを集めても効率はあまりよくありません。

4. 聞き込みインタビューの効果をあげる脳内マップ作り

課題は「車の運転が不安」という仮説でした。そのような顧客の関心や悩みの種類と大きさを絵にしてみます。

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パターン1:通常のインタビューで作った脳内マップ

車の運転が不安という問題が顧客にとって大きいほど、プロダクトを提供した時に利用者となってくれる率が高いはずです。

「聞き込みインタビュー」では、脳内マップが事前に想定していたようになっているかを「実際の行動や振る舞い」という証拠を集めることで明らかにしていく手法なのです。

4W1Hという聞き方をしていた理由もここにあります。

主観を聞くのではなく思い出してもらうことが大事なのです。

言ってることと、やってることが違うというのはよくある例です。自分のことは自分でもあまり分かっていなかったりするものです。よって、脳内マップをインタビューで直接聞くのもかなり困難です。

ですが行動であれば聞き出していくことは可能です。

聞き込みインタビューとは顧客の脳内マップを確認していく手法とも言えます。

イナカートの例を振り返ってみましょう。車の運転には確かに不安はありそうです。しかし、スーパーに二日に一回という頻度で行く、それ以外に外出はほとんどありませんでした。

そこから見えてきたAさんの脳内マップはこんな感じになりそうです。

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パターン2:聞き込みインタビューで作った脳内マップ

先ほどのパターン1の脳内マップとの違いは、「車の運転」の悩みが小さいことです。というのもAさんは奥様に運転してもらっているからです。
※厳密には奥様の脳内マップも探索していく必要があります。また、孫/子供達などに関する質問は本記事では省略しています

「買い物>車の運転」としたところも、大きな違いです。

二日に一回買い物をしていることから、家の中で退屈しているよりは、買い物に出かけて変化を楽しんでいるのではないか?と仮説づけています。よって本来は買い物に関する4W1Hをもっと聞き込まないといけませんが、ここでは省略しています。

「課題を発見する」とは、このような脳内マップを明らかにしていくことになります。

二つの脳内マップを見比べてみても、課題の大きさが違うため提供すべきサービスも変わりそうです。当然のことながら、課題をどのように抽出して仮説づけていくかは、事業を作っていく上で重要な位置付けにあることがわかると思います。

5. 脳内マップを顧客に作ってもらうか自分で作るか?

本記事で最初にあげた通常のユーザーインタビューでは、顧客に「なぜ」や場合によっては「どちらの悩みが大きいですか?」と言った主観を聞くことで脳内マップを作っています。

つまり、顧客に作ってもらっていることになります。「顧客がそう言った」ということになりますので一見正しそうです。

しかし、自分のことをわかっている人はなかなかいないものです。言っていることとやっていることが違うのはよくある例です。顧客に作ってもらった脳内マップは実はあまり信憑性がない場合が多いというのがこれまでの経験です。

一方、聞き込みインタビューの場合は、顧客に脳内マップのことは基本的に聞きません。その代わり「問題にまつわる行動」を客観的事実として出来るだけ集め、事業の創り手側が脳内マップを作ることを意味します。

自分で脳内マップを作り確かめていくことが聞き込みインタビューの本質です。顧客に主観を聞くのではなく、問題の周辺の証拠を集めて問題を特定していくという、正に聞き込みのようなインタビューとなります。

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上図に示すように、聞き込みインタビューは行動から問題を浮かび上がらせる方法となります。つまり、行動というファクトから帰納法的に課題を見つける手法とも言えます。

6. 改めてソリューションを見直してみる

聞き込みインタビューの結果を振り返ってみると、車の運転への不安よりも、実は買い物の楽しみの方がユーザーの脳内マップ的には大きな関心の可能性があります。

もしそうであれば、イナカートのソリューションの形態は、ショッパーによる買い物代行ではなく、むしろ軽トラックなどで小さなスーパーを作って各世帯を巡行するような形態の方がソリューションとして適している可能性があります。

このように、インタビューの仕方によって、課題の認識が変化しソリューションも変わります。

今回は課題を浮かび上がらせていくユーザーインタビューとしての「聞き込みインタビュー」を解説しました。

このような方法が何かしらの参考になれば幸いです。

聞き込みインタビューをどんどん実施していきましょう。


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