たまごサンドのこと
母が作るたまごサンドがよそのたまごサンドと違うと気付いたのはいつだっただろう。おそらく、遠足のお弁当でのできごと。小学校の中学年くらいだっただろうか。
昼食にたまごサンドが入ったミックスサンドを食べながら、そんな事をふと思った。
母が作るたまごサンドには厚焼き卵がサンドされていた。あまり甘くない、お醤油の入った厚焼き卵。母の卵焼きが大好きな私には、とても嬉しいサンドイッチだった。
遠足のお弁当にサンドイッチをリクエストした時。
お弁当の時間に友達とお弁当を広げる。私の他にもサンドイッチの子が何人かいた。ハム、きゅうり、ツナ。でも、たまごサンドが違う。私のは厚焼き卵だけど、友達のはゆで卵をマヨネーズで和えたやつが入っている。
私のだけ、違う。
家に帰り、母に聞いてみた。
「私のたまごサンド、友達と違っとった。」
母が言うにはたまごサンドは2種類あるのだと。
母は関西人だった。関西では厚焼き卵のたまごサンドが主流なのだそうだ。そのため、母が作るたまごサンドは厚焼き卵がサンドされていたのだ。
もう1つのたまごサンドの存在を知った私は、母に作って欲しいとねだった。近いうちに作ってもらえる事になった。
しばらくして、その時はやってきた。
ゆで卵のたまごサンドを昼食に作ってもらったのだ。
「いただきまーす。」
ぱくり・・・。
ゆで卵は少し苦手だったが、マヨネーズと和えているためにまろやかでおいしかった。初めてのゆで卵のたまごサンドに私は満足だった。
それからは、母のたまごサンドは厚焼き卵だったりゆで卵だったりした。
中学生になると私も料理をするようになり、サンドイッチを自分で作る事もあった。私はゆで卵のたまごサンドを作った。つぶし方や調味料の加減など工夫して作るのは楽しかった。
それでも、厚焼き卵のたまごサンドは作らなかった。なんとなく、それは母に作ってもらう物だと思っていたからだ。
やがて私は結婚し、子供を持った。
子供にサンドイッチを作る事もあった。その時に私はゆで卵で作っていたが、たまに厚焼き卵で作る事もあった。
「ねぇ、ママー。なんで卵焼きがはさまってんの?」
子供に聞かれた時、私はしたり顔でこう言うのだ。
「あのね、関西のたまごサンドは卵焼きがはさまってるんだよー。」
幼い子に関西ではーなんて言っても伝わっていなかったと思う。子供が大きくなってテレビ番組で関西のたまごサンドを見た時に、もう一度言ってみた。その時に、おばあちゃんも関西人だったからの一言も付け加えて。
自分でも厚焼き卵のたまごサンドを作るが、やっぱり何か違う気がする。子供の時に食べた母のたまごサンドの方がおいしい気がする。思い出補正か、母の気持ちか、どっちだろう。おそらく、両方。
でも、そんな事はどうでもいいのかもしれない。幼い時の幸せな記憶なのだから。