ツボにハマったハンバーグ
「掘ってみ。いいから掘ってみって」
私は、友人の前にずいっとツボを差し出した。
「めっちゃ面白いから!」
今年の6月、やけによく晴れた暑い日のこと。
ドライブがてら遠出をした私と友人は、少し遅い昼食をとろうと店を探していた。2人とも土地勘のない場所でグーグルマップを頼りに見つけたのが「のうえんカフェ」だ。
まるで避暑地を訪れたかと思うような、木の温もりあふれるお店の佇まいに、思わぬ宝物を発見したような気分になる。店先に大きく影を投げるツリーハウスも、夏空とマッチしていい雰囲気だ。
普段は行列ができる店のようだが、ピークを外したおかげか少し待っただけで入店できたのは助かった。席につくなり、空きっ腹を抱えた友人と2人で、食い入るようにメニューに目を通す。
地産地消を掲げ、野菜をたっぷりと使った洋食メニューが並ぶなかから、私が選んだのは「つぼ焼きハンバーグ」。鶏肉好きな友人は「鶏の唐揚げ」を注文した。
口コミから、ボリュームが多いのは分かっていたので、ビュッフェ形式の前菜とご飯を控えめにいただきながら待つこと2、30分。まず友人の唐揚げが到着した。
てんこ盛り。見るからに衣カリカリ中ジューシーな唐揚げが、てんこ盛りだ。友人は、己の前に差し出された皿を2秒見つめたあと、穏やかな笑みを浮かべ大きく「うん」とうなずき、スマホで撮影した。
そして、おもむろに「持ち帰り用パック」を注文したのだ。
続いて登場したつぼ焼きハンバーグ。見た目はそれほど威圧してこないが、重量感たっぷりだ。両手で抱えるくらいのツボにみっちり料理が詰まっているのが雰囲気でわかる。むしろ野菜があふれている。申し訳程度に乗せられたフタを外した途端、私は笑いをこらえられなくなった。
掘っても掘っても、野菜が出てくるツボ。赤ちゃんのこぶし大の芋がゴロンゴロン出てくる。フォークでえぐるように掘ると、ようやく肉の塊が出てくるが、まだツボの底には到達できない。
食べるのも忘れて採掘に夢中になる私を、生暖かくも優しい笑顔で眺めながら堅実に食事を進める友人に、私はツボを差し出した。
「掘ってみ!めっちゃ面白いから!」
言われたとおりにツボを掘ってくれる友人。やはり想像以上のボリュームだったらしく、笑いながらツボを返してきた。ツボを抱え、さらに掘ると、なんと一番下からパスタが出てきたではないか。
これには2人で爆笑した。深い。ツボ深い。前菜控えめにしておいて本当によかった。
そして美味しい。前菜も、唐揚げも、野菜もハンバーグも全部美味しかった。テンション上がったまま、パンパンに膨れたお腹を抱えて年甲斐もなくツリーハウスにも登ってきた。
今年一番美味しかったのは、間違いなくこのときのハンバーグだ。味はもちろんだが、思い出すと今でも笑顔になってしまうくらい印象深い。
しょうもないことでツボにはまる私に、呆れることなく一緒に笑ってくれる友人と笑いながら食べたつぼ焼きハンバーグ。
美味しいは楽しくて、楽しい食事はものすごく美味しいのだ。