見出し画像

過去の自分を癒す

リトリート体験記②

大きな変化があった翌日は、遠出することになっていた。
Davidの運転で、キラウエア火山を目指して車を走らせる。

ドライブの途中、眺めの良いカフェでブランチ。
Black Sand Beachでウミガメを間近に見る。
カメラが手放せない。お蔵入りしていたミラーレス一眼レフを持ってきてよかった。

フォトグラファーでもあるユリコさんは、プロ仕様のカメラに大きなレンズをつけている。振り返ると、気づかないうちにシャッターを切られていた。
写真を撮られるのは苦手で、「撮りましょうか?」と言われると、反射的に断ってしまう。カメラを向けられると、どうしていいかわからないのだ。
でも、この時は違った。

自然に笑っていた。大きな口を開けて、思いっきりはじけて笑っていた。
嬉しかった。

Volcano Wineryに立ち寄り、いよいよキラウエア火山へ。
雨が降り、霧が立ち込める。寒い。何も見えない。
ホテルのロビーで暖をとりながら、天気の回復を待つことになった。
火山の女神「ペレ」を模した暖炉のそばでソファに座る。

正面のモニターが映し出す過去の噴火の映像を、見るともなくぼんやり眺めていた。
あふれ出た溶岩流が、木々や集落を押し流していく。とてつもないエネルギーがすべてを飲み込む。

何度も繰り返し見ているうちに、ふと、過去の自分が怒り散らしていたことを思い出す。
ユリコさんに「過去の自分を見ているような気がする」と語りかけてみた。自然な会話からコーチングセッションが始まり、「その時の自分に、どんな言葉をかけたいですか?」という問いをもらう。

15年ほど前、怒りを手放した瞬間をはっきり覚えている。
不幸な家庭環境を恨み、ため込んだエネルギーが怒りとなって噴出していたけれど、すっかり消滅した。一生分の怒りを使い切ったのだと思った。
しんどい体験もすべて必要な出来事で、大切なリソースだと思えるようになった。
解決済み案件に対して、言葉は浮かばない。

でも、過去の自分を癒してあげただろうか。大切に扱ってあげただろうか。
「言葉じゃなくて、過去の自分に寄り添ってあげたい」と答えた。
そばにいて抱きしめてあげたい。

それから数時間経ち、レストランがクローズする前に夕食をとることになった。いかにも山のホテルらしい素敵なレストランで、シャンパンをオーダーする。泡をひとくち、口に含むと気分が晴れやかになる。
美味しいディナーを囲みながら、DavidにALOHAスピリットについて教えてもらう。
「すべては愛」だと。思わず涙がこぼれた。

食事の後もう一度、火口へ行ってみようとDavidが提案してくれた。
雨が止んでいて、車を降りると赤い雲が見える。
灯りのない暗闇の遊歩道を歩いていくと、マグマが見えた。

音もなく静かに。
真っ赤に燃える地球のエネルギーが湧き出ている。

見えた。
逢えた。

マグマを見るのは初めてなのに、過去の自分に再会したような感覚。
寄り添い、「ありがとう」と言葉をかける。
寒くて早く車に戻りたいけれど、しばらく留まり、一緒にいることにした。

ユリコさんがやさしい言葉をかけてくれて、思わず声を上げて泣いた。
癒し、癒される。
閉じ込められていた想いを成仏させてあげることができた。
浄化されて清々しい気持ち。

帰り着くと、真夜中を過ぎていた。
丸一日ロングドライブして、何時間も待ち、もう一度火口へ行ってみようと提案してくれたDavidとユリコさん。おふたりには感謝しかない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?