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彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1「ハムレット」舞台観劇

みなさんは吉田鋼太郎さん演出・上演台本の舞台「ハムレット」を観ましたか。

私は6/16の北九州芸術劇場で観劇しました。

蜷川幸雄氏から引きついだ「彩の国シェイクスピア・シリーズ」として、今年の5月に新たな歴史の幕開けとして演出家吉田鋼太郎さんが選んだ記念すべき第1演目が戯曲の中でも最高傑作と言われる『ハムレット』。
そのハムレット役が柿澤勇人さんだった。

2024年5/7〜5/26  彩の国さいたま芸術劇場
2024年6/1・6/2  仙台銀行ホールイズミティ
2024年6/8・6/9  愛知県芸術劇場
2024年6/15・6/16  J:COM北九州芸術劇場
2024年6/20〜6/23  梅田芸術劇場シアター


私が観劇した舞台は残りあと4日間の大阪のみという時期だったので、たぶん私は完成された"柿澤ハムレット"を見てしまったと思う。
舞台「ハムレット」は、圧巻だった。


シェークスピアの四大悲劇の一つ、その内容は王である父親を毒殺した母である王妃を妻とした叔父への復讐劇。
それくらいの乏しすぎる知識しか持っていなかったので、観劇当日は軽い気持ちで出かけてしまった。


幕があがってものの1分たたないうちにあっという間に引き込まれた。息つく暇もないほど、瞬きをするのも勿体ないほどのスピードで会話劇が繰り広げられた。
1幕105分、2幕95分の計3時間35分。
迫力ある舞台を集中して観劇すると、見るだけでもとても疲れたけれど、1幕後の15分の休憩時間も舞台終了後も私はすごく興奮していた。



舞台は城内の円柱型の支柱が7.8本あるだけの余計なものが一つもなく超シンプル。
華やかな場面、危機迫った場面、一人をフォーカスして心情を表す場面など役者達の演技と照明とで表現できる演出も素晴らしかった。
役者さん達の声の変化や呼吸、足音、速さ、心の葛藤などが振動で繊細に伝わってくる。


劇中、苦悩し続けるハムレットがとても印象的だった。人の行動を深く観察し、自分がどう行動していくのかを悩み続ける姿や人としてどうあるべきかなどの心の葛藤が次から次へと溢れてくる言葉で埋め尽くされる。
叔父のクローディアスを復讐できる機会が何度もありながら、今殺してしまうことを自問自答しながら苦しみためらう。
人生は一度きりという命の重さを十分に分かっているようにもみえた。
ハムレットが唯一心を許す親友ホレーシオが居てくれてよかったと思った。狂気じみた設定の中に唯一冷静に現実を素直に受け止められる青年、ホレーシオ演じる白洲迅さんが舞台上にいると、観客と同じ線上にいてくれるようで、私もホッとする気持ちになっていた。
ホレーシオの存在は他の登場人物たちがいかに歪んでいる、ということが伝わってくる。



それにしても柿澤勇人さんは超がつくほど色気がありかっこよくて、思わず惚れてしまうところでした。
照明の関係かどうかはわからないけれど、とても目が綺麗な人だと何度も思った。
極限状態の重圧に声を荒げるお芝居、その一方で囁くような言葉も粒立ててしっかりと聞こえてくる。
観客を背に話す時にどこかで声が反射するように聞こえる時や、劇中の旅役者のお芝居を下手でじっと立ったまま見ている姿の彼をみていると、今まさに私は生の舞台を見ているんだという実感だった。前から6列目という良席に恵まれたこともあり忘れられない舞台になった。


後日、YOUTUBEにあがっているゲネプロをみてみると、柿澤さんは幕があがることもカーテンコールに立っていられるかどうかも今は想像できないし、立っていられたら奇跡だなと思うと、稽古場のインタビューで答えていた。そして映像は、私が観た舞台のときよりもずっとふっくらとしているようにみえた。

私が柿澤さんをみて思ったのは、これ以上このお芝居を続けたら…本当に、死んでしまうのではないかと心配にもなった。
身体も心も、まさに命を削るようなお芝居ってこのことだ。
そしてそのエネルギーは、ドフトエフスキーの舞台「罪と罰」の春馬くん演じるラスコーリニコフと重なる。
柿澤隼人さんは公演終了後は少しはゆっくりと寝ることが出来ただろうか。台本をもらってから眠れないとインタビューチラシに書いてましたから。

たぶん、ハムレットを超える舞台観劇は、もう巡り合わないかもしれない、とも思った。


ここまで書いてきたけど、すごかった、よかったとか、伝わってきたなどの簡単な言葉でしか書けないことが情けない。相変わらずこれでは全然伝わらない…。


パンフレットに吉田鋼太郎さんの言葉をのせます。

…(一部削除)
その挑戦に「ハムレット』ほどふさわしい芝居はないんです。今まさに柿澤君が懸命に頑張っている最中ですが、戯曲に書かれた状況と感情にふさわしい台詞を、時に動き回り走り回りながら、声量やスピードも自在に操り、喋らなければならない。ハムレット役者がワンシーンワンシーンを命がけでやらなければ成立しないんです。
「人はなぜ人を殺すのか」というテーマの素晴らしさと筋立ての面白さ、キャラクターの魅力だけで成立させることも可能だけれど、それでは納得のいくハムレットにならない。柿澤君にはハムレットがやらなければならないことを全てやってほしいんです。でも最終的には自由に動き回れるようにならないと、演出家から押し付けられたものや、自分の解釈が整わない状態では、最後まで乗り切れない。それくらい負担もストレスも大きく大変ですが、こんなに稽古が楽しい芝居もないですね。
ハムレットはクローディアスの台詞にもあるように、本来は庶民から愛され、将来を嘱望され、機知に富んだ素敵な青年だったはずです。それが復讐のために狂気を擬態し、図らずも人を破滅させ、自分も破滅に突き進んでしまうという悲しさ。最後は人を殺すまでにどれだけ悩み苦しんだかを伝えてほしいとホレーシオに託します。個人的な問題を発端にした悩みが、どんどん深く大きくなっていくんですね。フォーティンブラスを見て何千の命を犠牲にする戦争とは何かを考え、「一羽落ちるのも神の摂理」と言うようになる。オフィーリアやレアティーズ、友人だったロズ・ギルとの関係も切っていく苦渋の決断が続く中で、凄まじい試練を乗り越えながらハムレットは成長していくんです。
だからこそ蜷川さんから継承したように、ワンシーンを命懸けでやることが絶対的に必要なのだと改めてわかりました。マグマを胸で燃やしながら、怒鳴らず叫ばず、緻密な会話劇として成立させるのは至難の業です。そんなハムレットを周りが一丸となって助けることも不可ですね。柿澤君と一緒に辛抱強く、まだまだ待ち受けるハードルを飛び越えていかないと!

Hamlet パンフレット 吉田鋼太郎さんより




 劇中に次から次と溢れる台詞(言葉)がとても美しく、心に突き刺さるような言葉がたくさんあった。もしも願いが叶うのなら、もう一度柿澤隼人さんのハムレットをもう一度観たい。もう二度と観れないことも分かっているから尚更愛おしい。
舞台上で繰り広げられる会話劇の中で、感銘する言葉の数々をもう一度みたいと、舞台と同じ翻訳の小田島雄志さんの本、シェークスピア「ハムレット」をAmazonで購入して読んだ。
膨大な台詞がほぼそのまま書かれていて、舞台を思い出しながら読んだ。

シェークスピアの主役の台詞には、目の前の相手にかける台詞と独白とが織り交ぜられ、この独白がうまく操れると、実に効果的に心の内が表現できると書かれていた。

舞台上でも本の中でも、ドーンと衝撃を受けた言葉を一部書いてみました。


ハムレット)繰り返し言うが他言しないように頼んだぞ。
いまの世の中は関節がはずれている、うかぬ話だ。それを正すべくおれはこの世に生を受けたのだ! さ、行くとしよう

ハムレット 小田島雄志 訳
第二幕第五場

ハムレット)短剣のようなことばを用いても、用いるのはことばだけだ、
その点、舌と心はお互い裏切りあってほしい。
舌がどのように激しく母上を責めたてようと、心よ、
そのことばを実行に移す責だけは負うなよ。

ハムレット 小田島雄志 訳
第三幕第二場

クローディアス)言葉は天を目指すが心は地にとどまる
心のともなわぬことばがどうして天にとどこうか。

ハムレット 小田島雄志 訳
第三幕第三場

ハムレット)習慣というものは、悪い行いにたいする感覚を麻痺させてしまう化け物ではあるけれど、一方、よい行いにたいしてお仕着せを与え、次第にみにつけるようにしてくれる天使でもあるのです

ハムレット 小田島雄志 訳
第三幕第四場


ハムレット) 前兆などいちいち気にしてもはじまらぬ。雀一羽落ちるのも神の摂理。来るべきものはいまくればあとには来ない、あとで来ないならばいま来るだろう、今でなくても必ず来るものは来るのだ。何よりも覚悟が肝要。

ハムレット 小田島雄志訳 
第五幕第二場



7月の中旬に、埼玉の舞台映像が一週間の期間限定で配信があっていたということに終わった後に気づいてしまった。わぁー、もう一度観たかったからとても残念…。


しかしなんとなんと!
昨日付のyahoonewsで9/23午後5時30分より
cs衛生劇場でそのハムレットが放送されるというbig newsが入ってきたー!

観れなかった方、ぜひ観てみてください‼︎
二度と観れないと思っていたので、映像でもとても嬉しいー‼︎

連日どの舞台も満席
もちろん次週の大阪公演も満席!
Jcom北九州芸術劇場 2024/06/16


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