文字を持たなかった昭和 続・帰省余話24~温泉でリベンジ!その四

 昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴ってきた。

 今度は先だっての帰省の際のあれこれをテーマとすることにして、印象に残ったことのまとめやエピソードに続き、ミヨ子さんとのお出かけを振り返っている。桜島を臨むホテルに泊まり温泉を引いた大浴場で入浴離島住まいのミヨ子さんのいちばん下の妹・すみちゃんも交えてディナーを楽しんだ。翌日、島へ戻るすみちゃんとお別れしたあと、実家近くの古いお墓へお参りに行くもミヨ子さんの脚が動かず、結局二三四(わたし)だけがお参りした。

 そのあと、郷里に数年前できたグランピング施設にチェックイン。続いて隣接する「市来ふれあい温泉センター」へ。前回の帰省では入り損ねた介護湯と呼ばれる家族湯を、今度こそ利用するためだ。ミヨ子さんの体勢の調整に難儀したが、なんとか浴槽に入れてあげられた

 タイルを貼った浴槽は小ぶりで、3人も入ればいっぱいだ。家族湯とはそんなものかもしれないが、畳敷きの休憩室や洗面所のゆとりからすると、洗い場と浴槽はちょっと窮屈な気もする。もちろん、二人で脚を伸ばして入るのには問題ない。温泉に行くといつもするように、ミヨ子さんの肩が冷えないよう、お湯を洗面器で汲んでざぶざぶかけてあげる。手動式温泉かけ流しである。

 お湯の温度は、ぬるくなく熱すぎずちょうどいい。同じ施設の大浴場の、大きな浴槽のお湯はちょっと熱い。同じ温泉水を汲み上げているはずなのに、介護湯は浴槽が小さい分お湯の温度が下がり気味なのだろうか。
「お母さん、ちょうどいいお湯だねぇ」と二三四。
「ほんと、いいお湯だねぇ」とミヨ子さん。

 ミヨ子さんは湯舟の中で足などをゴシゴシする。これは癖みたいで、大浴場の浴槽の中では遠慮させるのだが、介護湯などの家族湯の場合は、利用者が代わる度にお湯を換えるシステムだから、ゴシゴシに任せる。タオルを浸けてもいいかも、と一瞬思ったが、さすがにそれは遠慮した。

 お湯の中では、デイサービスのお風呂の話を聞く。もっともこれは半年前も聞いているが。少し温まったところで、二三四はミヨ子さんに声をかけて浴槽を出、自分の髪と体を急いで洗う。ときどき振り返って、ミヨ子さんが溺れたりしてないか確かめる。介助しながらの入浴はせわしないが、しかたない。自分が望んで連れてきたのだから。

 浴槽に戻ってちゃぷんとお湯につかったら、そろそろミヨ子さんを「引き上げる」タイミングだ。部屋を出る前にお湯を抜いておくのがルールなので、先に水栓を外す。それから、入ったときと逆の動きをさせて、ミヨ子さん慎重に洗い場に戻す。絞ったタオルで体をざっと拭き、洗い場の外に停めてあるバスタオルを敷いた車椅子にミヨ子さんを座らせる。自分も急いで体を拭いた。

 ここまでの工程を無事に進められて、二三四はほっとしていた。とくに洗い場や浴槽での事故がなくてよかった。もう少しだ。

※前回の帰省については「帰省余話」127

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