文字を持たなかった昭和365 ハウスキュウリ(14)収穫

 昭和中期の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子(母)の来し方を中心に、庶民の暮らしぶりを綴っている。

 このところは昭和50年代前半新たに取り組んだハウスキュウリについて述べており、労働力としての当時の家族構成想定外、ビニールハウスの場所規模構造苗の植えつけ手入れの概要、その一部の整枝と摘葉などを書いた。

 キュウリの成長は速い。インターネット上の栽培指南によれば、開花してから10日前後で収穫できるとある。植えつけから2か月程度、夏に植えたものなら1か月程度で収穫だ。「設置や植えつけの時期」《URL510》に書いたように2月から3月頃に植えたのだとしたら、4~5月には収穫したことだろう。

 収穫の風景の中には、昭和53年(1978)年の春に高校を卒業して県内で就職する長男の和明(兄)の姿もあった。就職先の宿舎に住むようになってからは農作業の手伝いはほとんどできなくなったので、早めに植えたキュウリを家族総出で収穫する機会をかろうじて持てた、ということだったかもしれない。

 キュウリは、スーパーや八百屋の店頭で見かけるようなまっすぐに育ったものばかりではない。毎年夏になると屋敷の畑にキュウリを植え、食べているミヨ子たちにはわかりきっていたことのはずだったが、手間と費用をかけたビニールハウスの中で育つキュウリも、露地ものと同じように曲ったり、瓢箪のように中ほどがくびれたりするのは、心理的に受け入れがたいものがあった。

「よんごが多(う)えどなぁ*」(曲ったのが多いですねぇ)
ミヨ子は溜息混じりに二夫(つぎお。父)に語りかける。

 二夫は、キュウリの曲がりを避けるために何か手立てはないか考えてみた。重りを下げるのはどうだろう? と検討したこともあったが、重りをどこにつけるのか、そもそも開花して10日程度で収穫するキュウリに重りをつけているヒマはあるのか、といった話になり、具体化することはなかった。

*鹿児島弁。
「よんご」は「歪んだ」の意味で、ここでは曲ったキュウリを指す。しばしば「ひんご」(ひん曲がる)とセットで使われる。例:こん線はよんごひんごなっしもた。(この線はくねくね曲ってしまった)
「うえ、うわか」は「多い、多か」の転訛。例:見け来た人はうわかった(見に来た人は多かった)。


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