文字を持たなかった昭和 続・帰省余話25~温泉でリベンジ!その五

 昭和の鹿児島の農村を舞台に、昭和5(1930)年生まれのミヨ子さん(母)の来し方を軸にして庶民の暮らしぶりを綴ってきた。

 今度は先だっての帰省の際のあれこれをテーマとすることにして、印象に残ったことのまとめやエピソードに続き、ミヨ子さんとのお出かけを振り返っている。桜島を臨むホテルに泊まり温泉を引いた大浴場で入浴離島住まいのミヨ子さんのいちばん下の妹・すみちゃんも交えてディナーを楽しんだ。翌日、島へ戻るすみちゃんとお別れしたあと、実家近くの古いお墓へお参りに行くもミヨ子さんの脚が動かず、結局二三四(わたし)だけがお参りした。

 そのあと、郷里に数年前できたグランピング施設にチェックイン。続いて隣接する「市来ふれあい温泉センター」へ。前回の帰省では入り損ねた介護湯と呼ばれる家族湯を、今度こそ利用するためだ。なんとか浴槽に入れてあげることができ無事に入浴を終えて洗い場の外に停めておいた車椅子にミヨ子さんを座らせた。

 自分はバスタオルを巻きつけたままで、二三四はミヨ子さんの体を拭いてあげて、ホテルの部屋着を着せる。肌が柔らかいうちに保湿ケアもせねばと、自分の乳液をミヨ子さんの顔や体に塗りつける。ミヨ子さんはじっとしたままだ。二三四はこっちが母親になったような気分になる。もちろん、年に数回こんなことをしても、親孝行にはほど遠いが。

 温泉施設ではドライヤーも貸してくれたが、ミヨ子さんは髪を短くしているし薄くもなっているので、髪は乾かさなくていいだろう。ブラシで整えるだけにする。そこまで終えてから、二三四は特急で自分の支度をした。髪は、客室に戻ってから乾かせばいいや。

 一息つけたところで時計を見ると、午後5時を回ったところだった。4時から1時間半の予約をしておいて正解だ。少し余裕がでて、ミヨ子さんと世間話をする。いまここでしなくてもいい内容だが、女どうしのおしゃべりは、そんなものだ。 

 前後するが紙おむつも一式交換した。使い終わった紙おむつを包んでください、という意味だろう、ゴミ箱には袋状に折った新聞紙が数枚セットしてある。ありがたく包んで捨てたが、ほんとうは持ち帰るシステムだと、帰りにカギを返しに行ったとき知らされた。
「でも…いいですよ、こちらで処分しておきます」
施設の受付のお姉さんのご好意に甘えて、紙おむつはそのままにさせてもらう。

 おむつについては、前日のホテルで入浴した際に一式交換し、今朝は吸水パッドだけを取り換えた。トイレはずっとその都度行っている。この調子だと、多めに持ってきた予備のおむつはだいぶ余るかもしれないな。

 カギを返した二三四が介護湯の前に停めた車椅子のところに戻ると、ミヨ子さんが車椅子から下りて、壁を伝いながらまた個室に入ろうとしていた。
「お母さん! もうお風呂は終わったでしょ。部屋に帰るよ!」
慌てついでについ声が高くなる二三四。

 あとで考えれば、おむつに関して二三四が安心したのは早計だったし、ミヨ子さんが車椅子から移動しようとした行動も一種の予兆だったのだが、「温泉でリベンジ!」で頭がいっぱいで、ミッション終了の達成感に満たされていた二三四には、その先の予想を、それも悪いほうへ立てるなど考えられなかった。

※前回の帰省については「帰省余話」127

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